第130回 解消されていく男女の年金取り扱いの格差
遺族年金制度は改正の方向に
公的年金には、男女で取り扱いが異なる規定があります。
障害年金や老齢年金については、取り扱いが異なる事が基本的にありませんが、こと遺族年金に関しては、特に違いが顕著になります。そんな遺族年金の現状が少しずつ解消されて行くようです。
「厚生労働省は、公的年金加入者が死亡した際に遺族に支給される遺族年金制度に関し、父子家庭への給付拡充の検討に入った」という記事が今年に入ってから新聞等で報道されました。
まず前提として、現行の遺族年金のおさらいをしておきましょう。遺族基礎年金(国民年金)については、受給権者は子のある妻または子です。ですから夫婦と子供1人という家庭で、夫が死亡した場合に、妻と子供がいる場合は妻が年金を受け取ることができます。
これが逆に、夫婦と子供1人という家庭で、妻が死亡した場合、夫はそもそも遺族基礎年金の受給権がありません。子供には受給権が発生しますが、父母のいずれかに生計を維持されている場合、年金は停止されるという規定から、権利はあるけれども年金は貰えないという状態になります。結論を言えば年金は0です。
次に、遺族厚生年金については、受給権者が、「配偶者、子、父母、孫、祖父母」となっていますが、配偶者は、受給権者が妻の場合(夫が死亡した場合の妻)には年齢制限がありませんが、夫(妻が死亡した場合の夫)には年齢制限があるというように取り扱いが異なっています。
夫婦子供なしで共稼ぎ(年収がお互いに850万円未満)の家庭の場合、夫が死亡した場合の妻は年齢に関係なく年金が受給できる対象となりますが、妻が死亡した夫の場合は55歳以上という条件がかかるので、若い共稼ぎの夫婦であれば、夫は妻が亡くなったことによる遺族年金を全く期待できないことになります。
年金制度は「夫が働き、妻が家を守る」時代にできた制度だが…
なぜこんなに男性と女性とで大きな差があるかと言えば、みなさんも容易に想像がつくかと思いますが、「夫は働いて、妻は家庭を守る」というような事が当たり前の時代に仕組みができたからにほかなりません。
お金を稼いでくる夫と家庭を守る主婦の妻。夫が死亡した場合は家計が大変だが、妻が死亡した場合は、夫の稼ぎは全く減らないのだから、遺族年金はなくても大丈夫だろう。もちろん、そんなことは法律に一切書いてはありませんが、時代背景的にそんな考え方が根底にあったことは容易に想像できます。
しかし、そんな単一的な考えが社会で通じる古い時代は過ぎ去り、今では、結婚や出産の後も女性が継続して働いている家庭も珍しくありません。そういう家では、家計=夫の稼ぎ+妻の稼ぎということになります。この家庭で妻が亡くなった場合には、確実に家計にとって打撃となります。
また共稼ぎ世帯でなくても、長引く経済の低迷の影響を受け、夫単独の家庭の給与水準もかなり低い状態でとどまっているようです。以下の報道では父子家庭の家計の厳しさにも触れています。
「厚生労働省の調査(06年度)では、父子家庭の就労による平均年収は398万円で、母子家庭(171万円)の倍以上。だが、4割近くの父子家庭は年収300万円未満だった・・」
母子家庭よりも深刻性が薄いとはいえ、子供がいる家庭で年収が300万円を下回る場合は普通に考えて生活が相当厳しいのは容易に想像がつきます。しかもそんな家庭が4割近くもあるのです。これでは、夫は稼いでいるから、遺族年金は必要ないだろうというわけにはいきませんね。
一方、現実には専業主婦世帯に分類される世帯であっても、表に出ない共稼ぎ世帯である(妻は夫の配偶者=第3号被保険者、を維持するために、年収を抑えてはいるが、パート等で年間120万円程度を稼ぐような、専業主婦世帯といいながらも共稼ぎ世帯的要素がある)という例もよく聞きます。
女性を保護するという事は、逆に女性を軽く見ているということ
夫が死亡した時の妻には手厚く、妻が死亡した時の夫には薄いというのは、いかにも女性を大切に保護しているような仕組みに見えますが、裏を返すと、「女性を軽く見ている」ことでもあるといえます。
「夫の年金(厚生年金、国民年金)は何かあった場合に原則として遺族年金に結び付く。ところが、妻の年金は結び付くケースが少ない」、ということは、夫の年金と妻の年金、仮に同じ労働をして支払う保険料が男女同一であっても、その価値は等価ではなく、女性の方が軽いという見方ができます。「私の年金の価値は隣で働いている同一給与の男性の価値より低いの?」と、がんばって働いている女性は怒りたくなりますね。さらなる女性進出をもし社会が求めるのであれば、遺族年金の形はどんどん変わっていかざるを得ないでしょう。
2012.02.20
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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