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知ってビックリ!年金のはなし
第131回 年金は一人ひとり常にチェックを
 
偽名で保険証が取得できた?!
  オウム真理教事件の平田信容疑者をかくまったとして逮捕された、斎藤容疑者という女性が、「全くの偽名」で保険証を受け取れたというニュースがあり、大騒ぎになりました。
  保険証の交付は(健康保険の届出は厚生年金の届出とまとめて行い、同じ手続きですので年金の話で取り上げます)、交付にあたって戸籍や住民票等確認書類を必ず必要とする免許証やパスポートとは違い格段に信用力が落ちますし、そういうこともあり得るだろうなと思っていましたが、世の中の方の反応は違いました。とてもびっくりされた方も多かったようです。
  この容疑者が保険証を取得した頃の話はわかりませんので今回は現在の話をします。今は、誰かが会社に入社する際、本人確認のための入社書類として会社側に戸籍や住民票を提出しなくても良いとように行政から指導が入っています。公的な証明が欲しければ、「住民票記載事項証明書」を提出するという扱いです。これは住民票そのものではなく、住民票の記載があることが間違いないという旨を市区町村長が証明した書類です。また、ここまで書類を提出させる会社はきちんとしていますが、社員を採用する際の本人確認は義務ではないため、特に書類を出させず、本人の申し立てを全面的に信用してもいいわけです。オウム事件の斎藤容疑者は特に書類を提出しなかったと報道されています。
  書類提出が不要であるならば、それこそ本人の申し立て通りの内容で手続きを始めます。犯罪者ならば上記の住民票記載事項証明書を偽造することもあるかもしれません。
  いずれにせよ入社時の本人確認をうまくすり抜けられれば、後は全く架空の人物であっても、会社はその人の申し立てが正しいとして、年金事務所に健康保険と厚生年金の資格取得届を出すことになります。
年金事務所での処理もそのまま通る
  社会保険適用の手続きを一度でも年金事務所でしたことのある方ならご存知だと思いますが、原則として証拠書類の提出は一切必要ありません。必要書類だけ持参すればよく、会社から役所への届出の関門はとても低いのです。年金事務所に出す書類には基礎年金番号を書く欄がありますが、外国人の方で初めて日本に来て働き始める方は基礎年金番号がありません。また日本人であっても、海外で生まれ育った人であれば、海外にいる間は任意加入ですから番号がない方もいらっしゃいます。もしこの方が日本に帰国して会社で働き始めたのならば、基礎年金番号は書けません。
  私も外国人の届出に携わった経験がありますが、年金事務所では「基礎年金番号欄は空欄で結構です」と言われました。20歳を過ぎていたら絶対に基礎年金番号が入っていないといけないということでもないようです。「基礎年金番号がない」のも例外的ですが全くないケースではないのです。
個人個人が自覚を持って
  偽装して保険証や年金手帳を受け取るというようなことは、このような報道を機会に、我々は少し考えないといけない問題かもしれません。
  年金や健康保険はとても信用できると感じるのは無理のないところですが、実際はその情報の大元は本人の申し出であり、会社の賃金台帳等を基にしています。会社はそれをベースにして各種書類を役所に提出しているという事であり、その中に間違いや不正があればそのままになってしまうのです。名前の間違いは(高と、恵と惠など氏名の漢字に微妙な間違いがある事もよくあります)、後日「この基礎年金番号の人はコンピューター上の名前と違いますが、本当に間違いないですか」という問い合わせが年金事務所から来ることもあります。しかし届出住所の場合、そんなことはわかりませんから素通りです。私もアパートの部屋番号を間違えて提出し、後から苦情がきて慌てて訂正したことがあります。
会社員の年金・健康保険関係のチェックポイント
  健康保険証を貰ったら、まず最初に氏名の間違いの可能性があるのですぐチェックしましょう(さすがに普通は気付かれると思いますが、各種の証明に使う事があるので)。
  年金については年に1回、「ねんきん定期便」が送られて来ますので、来ない場合は住所が正しく届け出されているのか否かのチェックもしましょう。会社が住所を間違えて書いているかもしれません。
  そしてもっとも重要なのは、本人が実際に貰っている給与と届出の報酬額の整合性のチェックです。報酬の額は会社が届け出るものですから、10万円を20万円と書き間違えたら、そのまま20万円があなたの報酬になりそれで保険料が計算されます。しかも報酬が20万円ということを役所に届ける作業と、実際に報酬20万円に相当する保険料を源泉で給与から徴収する作業は別々です。30万円の給与として保険料が徴収されているのに、届出額は20万円だったなんてことも現実にあります。年金事務所の調査は毎回あるものではありませんので、注意が必要です。
  会社の担当者も間違いがないように心がけてはいると思いますが、人の行う事ですから不正確なことがあり得るので(オウムの事件は意図的ななりすましでしたが)、十分注意すべきである、今回の一連の報道はそんな当たり前のことを再確認させてくれるものでした。
2012.03.05
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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