第14回 老後生活の金銭管理を考える
手のかからないお年寄り
先日、成年後見事務を多数手がけている社会福祉士の方の話を聞きしました。成年後見制度というのは、みなさんご承知のように、高齢(制度適用については高齢者に限りません)で判断能力が不十分な場合に本人を保護し、支えるための制度です。
その話の中で「後見人からみた後見事務のしやすいお年寄りとは?」という話がありました。みなさんどんな方が該当すると思われますか?
年金を取り上げるこのコーナーで話題にするのですから、勘の良い方ならすでにお気づきかと思いますが、ある程度まとまった公的年金がある方なのだそうです。
管理のしやすさは年金の最大の武器
どうして、年金があるほうが財産管理者として管理しやすいのでしょうか。理由はきわめて簡単で、公的年金は2ヵ月に一度確実に国から継続的に一定額(しかも物価スライドをする)が、その方が亡くなるまで振り込まれるという特徴を持つものです。入るお金が確実なので、あとは出る方をきちんと管理するだけです。口座引き落としにできるものは極力すべて自動引き落しにしてしまえば、後見人が特別に振込みや送金をする手間もないのです。最近は公共料金に限らず、いろいろなものの口座引き落としが可能になっていますからなおさらです。
特に、成年後見が必要となるような判断能力が衰えてきたお年寄りについては、どこかへ旅行にいくというような特別な出費も減ることが一般的ですから、普段の生活費がまかなえるくらいの年金があれば、月に1回程度、自宅または施設を訪問し、ついでに銀行で振込みと引き落としの記録を通帳に記帳するといったスタイルの仕事となる場合も多いのだそうです。
資産があれば大丈夫?
「老後に年金がなくても他に十分な資産があれば大丈夫だろう」と私たちは一瞬そう思いますが、換金しにくい不動産等の資産が中心で、なおかつ金融資産が少ない場合は大変なようです。
不動産は、本人自身に行為能力がある場合(認知症になってない場合)でも、売却手続きは面倒で、容易に処分できないことはおわかりいただけると思います。不動産によってはなかなか売れないものも多いですし、慌てて売れば足元を見られます。さらに後見人という本人ではない第三者が不動産を処分するとなると、手続きは厳重かつ面倒(第三者が売却するわけですから、不当に安く売らないというような監視の目もきちんと入るそうです)で、不動産を現金化し、後見を受けている方の生活費に充当するためには、実際大変な労力が必要だということです。居住用財産ならばリバースモーゲージの利用も考えられますがまだ一般化していません。
しかもそういう資産は、年金と違って使い切ってしまったら次がありません。後見を受けている方がいつ死亡するかということもわかりませんから、大切に減らないように管理していく必要もあるのです。途中で財産が底をついたら公的扶助に頼る等のなんらかの対策を考えないといけなくなりますが、またそれも面倒です。
後見実務から学ぶ年金の強み
介護・看護の問題は、その人の健康状態や財産状態など個人差があり、他の人との比較はなかなかできません。親子間の場合には愛情という特別な結びつきがありますから、少々事務が面倒であっても、苦労をいとわずこまめに財産管理ができるかもしれません。
しかし、たとえ親子であってもこういう事務は楽なほうがいいに決まっています。そして介護・看護が必要な方は、財産管理だけでなく、別途身上看護(身の回りの世話)もする必要があるわけで、なおかつそのほうが大切であったりすることも多いですから、無駄な時間は省いて、なるべく介護、看護に費やす時間を増やすことも考えたほうがいいのです。
やはり成年後見を担当しているプロの話は参考になります。
公的年金に限らず、民間の年金型の商品でも、「年金という形のお金の受け取り方」は老後生活を考える上ではとても優れたものなのだということを、多くの後見実務を担当している方から実体験として聞き、老後設計のプランニングに活かしていきたいものだと感じました。そしてその準備は自分が年老いてからでは遅すぎて、40代くらいから自分が介護されることを想定して準備をする必要があると思います。
2007.03.19
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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