第16回 年金一元化と年金の貰い忘れ
年金の貰い忘れが話題に
年金の貰い忘れ(記録等の漏れがあり、あるいは手続きをしていないことにより、昔働いていた期間に応じた、本来もらえる額の年金を貰っていないこと)の話が、最近あちこちで話題になっています。しかし、これは今に始まった事ではありません。
金融機関は年金相談会を開催して相談客を集め、貰い忘れ年金を探し出し、年金額を増やしてお客さまに満足してもらっています。そして、年金の振込口座を自分の所に開設して頂いて預金量を増やすというのを出発点として長年相談会を開催していたわけで、今大騒ぎするまでもなく昔から貰い忘れのミスはものすごい数があったわけです。しかし、その件数は現場体感では減少しつづけています。昔を知っている人に言わせると「何をいまさら」という感じなのです。
いたるところにある貰い忘れ要因
新聞、テレビの報道が問題にしているのは、社会保険庁内部の記録のずさんな整備(厚生年金の期間できちんと記録されていない)の話ですが、貰い忘れは何も厚生年金に限ったことではありません。制度間を渡り歩いた場合に貰い忘れが起こることもあります。
現在の年金の手続きでは、厚生年金、公務員共済、私学共済、厚生年金基金、これらは別々に請求手続きをしなければいけません。自衛隊に3年在籍した後に退職して民間企業に勤め、その後30年は厚生年金だったという人は、社会保険事務所だけで手続きを済ませていたら30年分の厚生年金だけしか貰えず、共済年金は貰えません。必ず共済のほうにも手続きしないといけないのです。
年金一元化の話がでていますが
厚生年金と共済年金の年金一元化が盛んに論議されています。
現段階では一元化がどの程度まで実施され、どういう風になるのかということはあまりわかっていませんが、制度的な難しい話は別にして国民の便宜を第一に考えるなら、「貰い忘れリスクを徹底的に排除する」ことと「手続きをする一般国民の面倒を軽減する」ことを最優先すべきところです。
これは一元化法案の成否にかかわらず緊急な課題だと思います。手続きが1回で済むなら、先の「3年自衛隊、30年厚生年金」の方は社会保険庁への手続きだけで33年分の年金を貰えます。貰い忘れリスクも手続きの面倒もありません。私の相談者の中に、厚生年金・公務員共済・私学共済の3つをまたにかけていた人がいましたが、その方は最低でも3回の受給手続き(裁定請求)をしなければ完全な年金にならないのです。これは大変酷な話です。
さらには、離婚時年金分割の制度が今年4月からはじまりましたが、夫が公務(共済)、妻が民間(厚生年金)の場合などは、話がとても厄介なようです。妻が社会保険事務所に行っても「夫のことは公務員だから分からない」と言われる。それではということで夫の共済のほうに行くと「妻のことは厚生年金だから分からない」と言われる。こういう場合は、分割を協議する本人同士で資料を取り寄せ、自分たちで協議しないといけなくなるのでしょうか。これではたまったものではありません。
貰い忘れを防止するための我々の対策
年金の一元化をはじめ、現在矛盾を含んでいる年金制度はおいおい改善されていくと思います。しかし、それはいつになるのかはわからないのですから、今出来ることから始め、貰い忘れがないように防衛していかないといけません。そしてそれは私たちの役割でもあるのです。
お客さまは年金に対する知識を十分に有しているわけではありませんから、自分の年金の貰い忘れには気がつかない場合が多いものです。貰い忘れを防ぐ(貰い忘れの年金をもらえるようにする)アドバイスをすることで、私たちの信用も格段にあがります。
年金を「厚生年金と国民年金」「公務員共済」「私学共済」「厚生年金基金」に分け、相談を受けたお客さまがそのいずれかに重複して加入しているとしたら、「その各々の受給手続きが全部済んでいるか否かを確認し、その手続きが出来ていないなら担当窓口にすぐに相談するように案内」する。これだけでもずいぶん違います。
前にも書いたかもしれませんが、現役で働いている時代と老後ではお金の価値感が変わってきます。働けなくなった老後に貰う千円は、若い頃の千円ではありません。もし働いていた期間がほんの少しで、貰い忘れの年金額がわずかだとしても放置しておくのは誠にもったいないのです。
2007.04.23
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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