>  知ってビックリ!年金のはなし >  第17回 残業の多少で年金保険料は変わってくるのですが
知ってビックリ!年金のはなし
第17回 残業の多少で年金保険料は変わってくるのですが
 
厚生年金の保険料を決める月
 社会保険(厚生年金、健康保険)は、4月・5月・6月に支払われる報酬を基準に決められるということは、皆さんご存知だと思います。そう、今はまさに「9月から1年の社会保険料を決めている時期」なのです。
 対象となる報酬の中には「定額の給与部分」のほかに「残業代」も含まれている事もご存知でしょうか。会社によっては知らないで間違えて計算しているところもあるみたいです。

 その厚生年金の保険料ですが、「社会保険料を安くするための知恵、あるいは年金を増やすための知恵」という手法で時々年金のプロといわれる方が、テレビ・雑誌等で解説されているのを見聞きします。「保険料を安くするためには、4月・5月・6月の残業を減らしましょう。逆に、保険料は高くても年金を増やすためには、4月・5月・6月の残業を増やしましょう」――確かにそうなのですが、どこかひっかかるものを感じてしまいます。
一般の従業員は勤務時間をコントロールできません
 一般の従業員が仕事量や仕事時間を自由に設定できるということはありません。逆に仕事量や仕事時間を自由に変えることができる人は、残業代を貰うことができる人ではない(管理監督者や重役等で残業代を支給されない)のが普通です。
 会社に指示をされてするのが残業であって、用もないのに残業をしてお金をもらうなんてことはできないはずです。逆に従業員の意識としても、仕事があるのに「お先に失礼します」といって帰ることは、よほどの理由がない限りはばかられることです。

 現在のような保険料の決め方ですと、1年のうちでGWの花見の頃に労働時間が激増する「ぼたん園」の従業員さんなど、4月・5月・6月が毎年のように「極端に忙しい」人は正直大変です。それ以外の月は残業代がそう多くないのに、報酬が高止まりしてしまいます。
 年金保険に関しては、保険料を多く支払った場合には、その分年金額が多いということでまだ納得もできますが、健康保険については保険料が高いからといって1本注射を多く打つわけでもなく、複雑な気持ちになってしまうのではないかと思います。

 ただ、そういう運不運はあっても、現にその仕事に就いているならば、それが運命だとして諦めるか、転職するしか選択肢はありません。4月・5月・6月が忙しかろうが、そうでなかろうが、残業しなければいけない時に残業をするのは従業員として当たり前のことです。
経営者にはとても重要な情報
 この「4月・5月・6月の報酬を基準に保険料額を決める」というのは、先に述べた残業代云々ということは別にして、年金制度の仕組みを教える場合や、経営者向けのセミナーでは大変に重要な情報です。
 会社の経営者ならば、経営上の工夫の中で4月・5月・6月に残業を発生させない仕組みをとることで社会保険料の出費を抑える事ができますので、会社全体としての事業費を抑えることも可能になります。
公的年金の保険料の特徴
 公的年金の特徴は、保険料が「自分のあずかり知らぬところで決められてしまう」ことにあります。定額の国民年金しかり、報酬比例の厚生年金しかりです。民間の保険(個人年金商品)であれば、いくら払うかという部分は自由に選択できるので、いくら保険料を支払うかということに対しての契約者からの不満はありません。
 しかも、公的年金は民間の個人年金のように、止めるという選択肢もありません。
 そういう特徴があるが故に、会社でも個人でも、厚生年金の保険料に対していろいろと不平や不満が起こったりすることもあるようです。それを上手く吸い上げ、しくみの説明を丁寧にしていく事もFPの仕事の一つかなと思ったりします。

 保険料は自動的に決められ、その前提となる賃金も会社が決定する。それなのに、残業をしたら有利不利というような話を一般の人にしてもいいのかどうか。疑問が残ります。
2007.05.21
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
  ページトップへ