第18回 相変わらず多い厚生年金基金の貰い忘れ
短期間加入の厚生年金基金の貰い忘れは本当に多い
昨日某所で年金相談会に行きましたが、相変らず厚生年金基金の貰い忘れが多いようです。「貰い忘れ」状態がとても多いというのは前から感じていましたが、昨日の年金相談会ではそれを改めて確認することになりました。
基金の年金額は物価スライドしません(基金加入時のスライドに相応する部分は国の厚生年金から支給されることになります)。ですから、若い頃に勤めていた基金からの年金は、元々の額が少ないうえにスライドしていないので僅かなものです。
ある相談者の場合は、20年以上も前に2年ちょっと加入し、基金からの年金額(年間です)が1万1千円ほどでした。
しかし、年金は1回限りの支給ではありません。10年貰えれば11万円、20年貰えば22万円の年金になります。1万1千円を月割りすると千円にもなりませんが、かといって手続きしないままにしておくと、かなりの損になってしまいます。目の前に10万円出されて「これほしくないですか、但し分割ですけど?」といわれれば普通は「欲しいです」ということになるでしょう。しかも手続きはそんなに難しくないのです。
貰い忘れだけでなく、基金の扱いには注意が必要
貰い忘れに限らず、基金にはいろいろな問題があります。深刻なのは、基金の年金額が社会保険事務所の年金見込額に入ってないことです。これで皆さんが悩んでいます。
別の相談者ですが、35年間会社勤めをして、そのうちの32年間、基金に加入していた人でした。その人が、見込額を持って真剣に悩んでいました。「60歳からの年金額が30万円台です(月額3万円程度)、これじゃどうやって生活していってよいかわからないのです」と。
基金から支払われる年金額は、社会保険事務所からの年金の見込額には入ってきません。
35年間会社に勤め、年金額が年30万円なんてことは普通ありえないというのは、普段年金を扱っている人間の常識でしかありません。一般の人にはわからないのが普通です。この人の場合、簡単に計算しても50万円を超える年金が基金から支払われる様子でした。つまり、厚生年金と基金を合わせ最低でも80〜90万円あり、それに65歳から70万円ほどの国民年金がある、ごくごく並レベルの年金額をもらえる人だったのです。
そんな人でも、社会保険庁から来た書類の数字に驚いてあわててしまうのです。年金相談に早く来ていればそういう心配もしなくて済んだのですが…。
基金は確かにわかりにくい制度ですが…
そもそも、厚生年金という国の制度の一部分を民間組織(基金)が代わって行うということが一般の人には理解できないようです。
隣のご主人の厚生年金にくらべ、自分の夫のほうが遥かに長い間年金に加入しているのに、額が少ないと年金相談会で不満を言った奥さまがいたそうです。応対者が「厚生年金に基金がある場合には、その基金も入れて全体が厚生年金です」と何度説明しても納得しなかったそうです。「会社の基金から貰う年金は会社からの年金だから関係ない」と言い張ったとのことでした。
そもそも厚生年金基金制度を作ったのは、「従業員の福利のため」という目的があったのでしょうが、いつのまにか「面倒な上にわかりにくい」という“年金不信の原因”となっているケースが目立ちます。確かに基金が絡むと内容が急にわかりにくくなってしまいます。
しかし、制度論は別にして、最盛期には厚生年金加入者のうちのかなりの数の方が基金に加入していた、ということは肝に銘じておく必要があります。現在では基金のある会社は激減していますが、基金のある会社に勤めていたという過去が覆るわけではありません。
基金に加入していた記憶のある人は、60歳になっても基金や企業年金連合会から何の書類も送られてこない場合、すぐに問い合わせてみると良いでしょう。
また、「基金って何?」という人は、自分の過去の履歴の中に基金加入期間があるか否か(社会保険事務所で調べられます)をまず確認してみる必要があります。
貰い忘れが多いという現実がありながらも、それを防ぐことをできるのは本人の行動しかないのです。
2007.05.21
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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