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知ってビックリ!年金のはなし
第21回 年金の自己防衛には限度があります
 
やっと世の中落ち着いてきました
 大騒ぎをしてきた、年金のずさん記録の問題もやっと落ち着きを取り戻してきました。今回の問題の所在は明らかにされつつあり、あとはいかに対策を立て解決するかに話は移ってきました。名寄せや記録の送付などは、(政府の確約どおりに1年で終わるかどうかは別にして)すこしずつ進められていっているようです。

 今回の問題では、いろいろとマスコミも特集を組んだり、別冊で書物を出したりしていますが、その中で、「自分で自分の年金を守る」というテーマで取り上げたところもありました。でも、残念ながら「今回の年金のずさんな記録漏れによる貰い忘れを防止して、年金をちゃんと貰う」という点は自己防衛策の考え方として評価できますが、それだけでは終わりません。

 今回の問題は、「過去に保険料を払っていた」にもかかわらず、その期間が「年金に結びついていない」という、きわめて「素人でもわかる単純なミス」だったために、国民は大いに怒ることができ、マスコミも大々的にこの問題を取り上げました。しかし、年金の本当の怖さは別のところにあると私は考えています。それは、「複雑すぎて誰もわからない部分で損をしてしまう」危険性があることです。
制度自体が難しい年金制度は簡単に自己防衛できない
 先日、私に年金相談をされた方は夫の遺族年金を受給されていたのですが、中高齢寡婦加算が無いために年間40万円程度の年金でした。加えて60歳からの特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分が30万円程支給されるという見込みでした。
 また、昭和22年4月生まれの方でしたので、特別支給の老齢厚生年金の定額部分が61歳から支給され、その金額がおおよそ40万円という見込みもそこに書いてありました。

 ご承知のように、60歳からの特別支給の老齢厚生年金は、遺族厚生年金とどちらか一方の選択受給になります(65歳からの厚生年金について選択はなくなりました=詳細は第13回をご覧ください)。ですから、60歳時点では40万円と30万円の比較になり、61歳からは40万円と70万円の比較になります。途中から定額部分の開始に伴って年金額が増えることになるので、どちらが多いかというのは記載されている数字を見ただけでは判別できない微妙なものになるのです。

 この方の場合は、60歳からは40万円の遺族厚生年金を貰い、その後61歳になったら70万円の老齢厚生年金を貰うのがベストチョイスということになります。

 61歳時点で、「こちらのほうが高いですよ」という選択変更を促す案内は社会保険庁からはきません(制度がコロコロ変わりますので断言できませんが、今まではそうでした)。

 そこでもし、61歳時点で気づかずにそのままにして、65歳まで遺族厚生年金を貰うとなると、(70万円−40万円)×4年 =120万円の損をしてしまいます。

 でもこんなことは一般の人にはわからないですよね。60歳から貰う厚生年金が段階的にまず報酬比例、後追いで定額部分が増えてという形になっていること、しかも60−64歳までの遺族年金の選択方法が、65歳からの年金選択(選択はなくなりましたが)と違うということは、一般の人には難しすぎます。
更に雇用保険も絡んでくる場合がある
 しかも、この方が60歳時点で会社に勤務している場合、「退職して雇用保険を貰うときは老齢厚生年金は調整がかかるが、遺族厚生年金は調整がかからない」という問題が生じ、さらにこの方の年金の選択方法が変わってきます(有利な選択が変わってきます)。

 悲しい現実ですが、年金は素人の手の届かないところに行ってしまっています。本来は国民全員が関係する年金制度に、「知らないから損をした」というようなことはあってはまずいはず。でも、現実にはこのあたりの話になると「自己防衛」はとてもじゃないけれどできません。
2007.07.23
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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