第23回 年金問題の収拾には慎重な対応を
時効撤廃のガイドライン
最近の年金記録訂正の問題ですが、やっとある程度のガイドラインができてきたようです。
問題となっている時効の件ですが、誤解を恐れず一言でいってしまうと、
「訂正によって納付記録が変更された場合は時効は適用せず、たとえそれがどんなに前からのものであっても全期間分を支給する」、ところが「本人が手続きを失念して遅れてしまった場合は、残念ながら従前どおり5年の消滅時効を適用する」という扱いになるようです。
公平性は大丈夫か
今回の問題は、一方的に社会保険庁が悪いというような言い方をされていますが、決してそうではないことは以前にも触れたと思います。
本人や会社が悪い場合もあります。わざと名前や生年月日を偽って働いていた場合などです。わざとでなくても過失として間違えていた場合もあります。会社がミスしている場合もある訳です。こういった、原因が社会保険庁側に無い場合であっても、記録の訂正については時効はかからないようです。氏名相違が社会保険事務所のミスか、本人の虚偽申告か外見上わからない以上、当然の措置でしょうか。
ところが、この措置には重大な欠陥があります。5年の時効が適用されないのが、「納付記録の訂正がある場合に限られる」という点です。
「なぜ法律に定めた年齢に達したのに手続きをしないのだ、そんな人は保護しなくてもいいだろう」という素朴な疑問を持つ方もいらっしゃるかも知れません。しかし、「働いている間は年金は貰えないから、退職してから手続きをしよう」といった単純な誤解をもつ方は案外多いのです。相談会でも時々お見受けします。ターンアラウンドの裁定用紙が届いても手続きをしようとしない人がたくさんいます。今の公的年金は複雑すぎて、一般の人ではわからないことだらけというのが残念ながら実情です。
「何歳から年金がもらえるか、その場合の要件は何か」というような極めて基本的な制度内容ですら、国民に周知徹底されていないのが現状ですが、それでもその部分の責任は請求をする必要のある我々がこうむるのです。
やみくもな救済は今後に禍根を残す
年金の記録漏れを救済するのは当然ですが、公平性を考えずに、「なんでもかんでも救済する」という姿勢になると、記録漏れ以外の不利益をこうむる人とのバランスがとれず、将来に禍根を残してしまうかもしれません。「わざと偽名を使って働いていた人が運よく記録漏れの訂正を受けて救済される」ことがある一方で、「まじめに年金を払い続け、60歳を過ぎても在職中はがんばって保険料を支払い、70歳になって手続きをしたら5年より前の期間分は時効のため遡れなかった」ということが出てくるわけです。正直な人たちに救済の道を設けなくても良いのか? という疑問が残ります。
さらに、もっとも面倒なのが障害年金です。
障害年金の場合は、支給対象となる障害状態に該当しているか否か自分では判断がつかず、そのまま放置している人が少なくありません。本来、障害状態にある人たちこそ、お金が必要なはず。しかし、障害年金の場合であっても請求遅れの遡及可能期間は5年までです。
表出した問題だけに注目し、「とにかく何でも救済すればいいだろう」という姿勢をとっていては、一部の確信犯が救済されるにもかかわらず、意図せずに不利益をこうむってしまう善意の人が救済されません。このようないびつな状況を生み出す対応には問題があると言わざるを得ません。同様の事例は今後もいろいろ出てくると思いますが、くれぐれもバランスを欠くことのない慎重な対応をお願いしたいものです。
2007.08.27
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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