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知ってビックリ!年金のはなし
第24回 役員報酬を決定する場合の年金の重要性
 
 とある保険セールスの方に聞きました。
 「自営業を営んでいるお客様から、法人化についての相談を受けることがあります。このような場合には、税理士さんを紹介し、かつ、税理士さんからいろいろとアドバイスを受けるようにしています。なぜならば、法人化をするかしないかの判断ポイントは、“税金面でどちらがより有利か”という点であるためです」

 もちろん、このこと自体に異論はありません。法人成りをするか、そのまま自営業で行くかは事業経営の根幹にかかる話であり、その主たる領域を担うのは税金の専門家であるからです。

 でも、ちょっと待ってください。年金や健康保険は全く関係ないのでしょうか? 税金ほどの重要性はないにしても、別な視点から「社会保険関係がどうなるか」ということをきちんと年金の専門家に確認してもらうのはとても大切なことなのです。特に年配の経営者には重要なテーマです。
不十分なアドバイスも見受けられます
 以前、雑誌でこういう事例を読んだ事があります。アドバイスをされていたのは税理士兼FPの方でした。
 「法人成りをして食堂を経営していたご主人が60歳を迎えた時点で、その食堂をどうするか? そのまま法人として経営を続けるのか、自営業としてやっていくのか」
 いろいろな選択肢をあげていましたが、社労士である私には的外れなアドバイスだと見受けられました。

 特に疑問に思ったのは「夫が60歳になったら法人を清算して、自営業として年金を丸々貰うという考え方がある」というもの。そのまま法人化していたら、法人の代表者は社会保険が強制適用されるため、「在職老齢年金により年金支給額が減るから、法人ではなく個人経営としてやった方がよい」ということを言いたかったようなのです。

 しかし、もっと詳細に読んでいくとこの事例は妻が3歳下。ということは、「自営業になることによって妻が第3号被保険者ではなくなる=妻自身が保険料を払わないといけなくなる」はずです(60歳に達していない妻は第3号被保険者から第1号被保険者となり、自ら保険料を払わなければならなくなる)。普通はそこまで気付かないものなのでしょうか。

 こういう場合、第3号被保険者でいるというのは有利ですから、法人を解散することなく、かつ年金を調整が懸からないように全額支給するために経営者の給与を低めに設定していくのがファーストチョイスだと思います。
 さらには、経営者の年金加入期間が少なくて今後の年金額を多くしたいのであれば、報酬を増額するといった選択肢も考えられます。

 もっと言ってしまえば、健康保険(特に傷病手当金)や障害年金、遺族年金のことを考える必要もあります。
 健康状態に不安がある方も多いですから(特に配偶者がいる場合には)、病気をした場合、亡くなった場合の公的保障も考えなければなりません。法人を個人経営に戻すより、法人のままで報酬を調整して対応するほうが望ましい場合も多いのです。
ベストなアドバイスとは
 昨年から、役員報酬を期の途中で変更すると会社の経費として認められないようですから、むやみに役員報酬の変更はできませんが、変更する時期に注意すれば、ベストな役員報酬を設定できるはずです。したがって、ここはやはり「税金ばかりに偏ったアドバイス」に終始するのではなく、年金や健康保険といった観点も入れるべきだと思います。

 税金をメインにされている方のアドバイスは、年金を専門に扱う者から見ると不満が残る事が多々あるのです。顧客の課題は税金だけではありません。税金だけに偏ることのないベストアドバイスを願いたいものです。
2007.08.27
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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