>  知ってビックリ!年金のはなし >  第27回 テレビ番組で年金を扱う難しさ(1)
知ってビックリ!年金のはなし
第27回 テレビ番組で年金を扱う難しさ(1)
 
テレビにかかる時間的制約
 先日の勉強会で、以前テレビ放映された年金の特集番組(録画ビデオ)を観ました。

 そこで考えさせられたのは、時間という制約のあるテレビで公的年金を取り上げる難しさです。たとえばこういうケースがありました。

 年金でとっても得をしている人の例の紹介、お得な理由は「配偶者への加給年金」。
 登場したのは、年齢差が20歳もある夫婦。
 このご夫婦、夫が59歳のときに結婚されたそうです(加給年金を受け取るためには加給年金の支給が発生する時点で婚姻をしている必要があります)。そして、現在受給されている夫の厚生年金には、月々約2万円程度の加給年金がついている状態とのこと。加給年金は妻が65歳に達するまで支給されますので、20歳の年の差なら加給年金は25年間支給可能です。累計で考えると確かにかなりの金額になります。「私たち年金でこんなに得をしています」という、ひたすらお得感を強調して加給年金の説明が終了していました。

 さて、この番組を見た人はどのような感想を持つでしょうか?

 おお、すごいなあ、人によってはこんなに年金で得をしているんだ。それにくらべて自分の年金は一体どうなんだろう?人によってずいぶん受給額に偏りがあり不公平感があるのが公的年金なのかなあ。いろいろあったと思います。
番組で見えない部分を考える
 どういう方がこの番組を作ったのか知りませんが、この加給年金の説明ですと、あれこれと突っ込みどころがあるんですね。

 まず、加給年金の支給開始年齢。テレビでは60歳から加給年金がもらえる人の例でした。確かにそういう方もいらっしゃいますが、残念ながら、60歳から加給年金がつくのは、昭和16年4月1日以前生まれの人です。これに対して、現在最も年金に対して関心が高いと思われる、年金を新たに手続きする必要に迫られている年代の男性は、昭和22年生まれ(平成19年に60歳を迎える方)。昭和22年4月2日生まれ以降の方の場合、加給年金がつくのは64歳からですから、年の差が20歳あって59歳の時に結婚したとしても、残念ながら加給年金は16年間しか受給できません。
 また、年金額も月2万円という額ではありません。昭和22年生まれの人ですと、加給年金の額は特別加算を加えて、月約3万円(年間396,000円)です。昭和9年4月2日〜昭和15年4月1日までの間の方は、加給年金が月額21,791円(年間261,500円)ですから、テレビで紹介されたのは、この辺りの年代の方だと推測されます。ちなみに、それより前なら年金は月額2万円を切ります。お茶の間でテレビを観ながら「何か自分の貰っている加給年金と額が違うんだけれどなぜだろう?」と疑問に思われた方もいたはずです。

 さらに言えば、今後年金を貰う予定の人との違いはより大きくなる。昭和24年4月2日以降生まれの男性に加給年金がつくのは65歳からです。
一体何が言いたかったのでしょう?
 一体、作り手(テレビ製作者側)が最も伝えたかった事は何だったのでしょうか?よくわかりませんでした。そもそも20歳も年の差のある夫婦はそんじょそこらにいるわけでもありません。確かに年金の世界では、普段なら滅多にないような事例(限界事例)に出くわすことが時々あります。たとえば入社後2ヶ月で交通事故にあって障害厚生年金の対象になった事例などです。こんな普通では考えられないケースも実際は世の中にあるんだなという点から年金の必要性は強調できますが、万人に役に立つ年金の知識、情報を提供するという目的で作られる情報番組の場合では、限界事例を出すことの可否、適切さに疑問が残ります。

 さて、テレビではこのご夫婦について「加給年金を受け取り有利」という点が強調されていましたが、本当に笑いが止まらないと強調するほどラッキーだったのでしょうか?

 続いてこの事を考えてみたいと思います。次の回に続きます。
2007.11.12
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
  ページトップへ