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知ってビックリ!年金のはなし
第28回 テレビ番組で年金を扱う難しさ(2)
 
第3号被保険者の検討が抜け落ちていた
 前回からの続き、「加給年金を受け取る有利さ」についての検討です。

 夫が59歳、妻が39歳で結婚した方ではなく、別の夫婦の場合を考えてみましょう。年の差は2歳、つまり夫が41歳、妻が39歳で結婚した夫婦がいたとします。
 この場合は、夫が現役で会社勤めをしていれば、妻は第3号被保険者です。つまり妻が専業主婦でいる限り、妻自身は国民年金の保険料の個人負担をしなくても良いのです。
 ところが、加給年金を貰っているケースの様な年齢が離れている夫婦では、夫はすでに退職をしている(もし仮に退職をしていなくても夫が65歳を過ぎると妻は第3号被保険者にはなれません)のが普通で、20歳年下の妻は、自分が60歳になるまで国民年金の保険料を払わないといけません。

 「得だ!得だ!」と強調された加給年金、しかし、実際には妻の国民年金の保険料1ヶ月分を支払うとなるとその額は、14,100円。そのプラスマイナスを差し引くと実は夫婦の年の差が小さいサラリーマン世帯と比較して(かつ現時点の保険料で)、月額6〜7,000円ほどしか得になってないのです。もちろんそれでも凄い差だろうといわれればそれは否定できませんが。

 「月々2万円強、20年もらえる。とてもお得ですねー」というテレビの説明ではこの辺が完全に抜け落ちていました。もちろん夫が自営業の場合、妻は第3号被保険者にはなれず保険料の個人負担がありますから、加給年金の無い自営業と加給年金のあるサラリーマン世帯の比較では正しいでしょう。しかしこの場合、ことさら20年の歳の差という点を強調しているのですから、自営業とサラリーマンという比較ではなく、サラリーマン同士で年の差のあまりない世帯との比較も必要なわけで、ここがあいまいなまま、加給年金はとても有利だという結論に達していたのです。加給年金が長くもらえなくても、第3号被保険者の期間が長いほうが損得では得をする可能性もあるのです。
加給年金も生年月日により開始年齢や額がまちまちです
 テレビの放映時間の制約からこういった細かい説明ができなかったのでしょうが、加給年金の得をするという一面だけがことさらに、しかも限界事例を出してまで強調されるのが私には不自然に思えました。

 年金に詳しくない人は、テレビで強調された20歳の年の差だけに目が行ったかもしれません。しかし、加給年金は、開始年齢も、額も、年齢によってまちまちで、同じ年齢差(20年)がある夫婦であっても、生年月日が放映されたケースと違っていればあのような損得にならないのが普通です。このことを一般の方がイメージするのは困難でしょう。ここも年金の怖いところです。
年金に関するメディア情報の読み方
 公的年金のお話をするとき、少し事例が込み入っている場合は、テレビや雑誌に登場する年金情報については、あまり深く考えず参考にとどめていただくようにお勧めしています。年金は人によってまちまちなのですから、一般論が当てはまる場合も当てはまらない場合もあるのです。特に難しい事例の場合、個別対応で年金のわかる人に具体的に聞くのが早道で、それ以外で本当に正しい知識は得にくいのです。

 テレビや雑誌で年金問題が取り上げられ、それを観たり読んだりする時、「どうしても時間的、スペース的制約があるので、重要な補足説明が抜け落ちたり、簡略化されたり、作者(編集者)の主観によってことさらに強調されていたとしても、その必要性には疑問が残る場合がある」ことには気をつけていただきたい。一般的に、テレビの情報番組というのはどんなテーマであっても同種の危険を伴うものだと思うのですが、年金関連の番組は特にそこが強調されても良いと思います。

 ただでさえわかりにくく例外だらけの年金ですから、これをテーマにして番組を作る側が大変なのもわかります。私はテレビのことは知りませんが、年金の話をする、年金の事を書くという仕事の依頼が来ることがあります。その時は当然、何分でとか何百字でとかいう制約がつきます。そうなるとどうしても説明がテーマ全部をカバーできないことも普通です。

 その場合、話を短くする以外に方法はないのですが、そのやり方がまずい場合には、聞き手や読者に誤解を与える事が増えてきます。誤解を与える危険が多いほど、それは下手な話、文章と考えても良いでしょう。でもそういう文章や説明が世の中にはたくさん出回っている。自分もそういう文章をなるべく外に出さないようにとは思っているのですが、なかなか難しいです。
2007.11.12
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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