第31回 ねんきん特別便の大きな2つの問題
その1、国民の記憶により年金額が左右される
これは前回説明しました。 ねんきん特別便は、「記録の統合漏れがあることが疑わしい人に送られる。そして送った人の申し立てを待つ」そういう仕組みであることは前回、前々回に触れています。
繰り返しになりますがこの「自分で手を上げなければいけない」という問題は本当にやっかいです。これが標題の大きな2つの問題の1つです。
いつどこで働いたという記憶が本人になければ、記録の整備があっても統合されません。
この話をすると、そんなバカな、自分がいつどこで働いていたのか覚えてない人なんているのかな? といわれる方がいますが、そう思われる方は幸せな方です。確かに転職したことがないか、あっても2、3回程度である人はいつどこでどれくらい働いたかという記憶は確かな場合が多いでしょう。でも世の中そんな人たちばかりではないのです。5回も10回も、あるいはもっと転職されている方もいる。そんな方に、ねんきん特別便で「あなたには疑わしい記録がありますよ」といわれても、はて、何処が抜けているんだと首をかしげてしまう方も少なくないです。ねんきん特別便には、何年何月から何年何月まで抜けが3箇所ありますとかそういうことを思い出させるヒントもないのです。
本人の記憶の有無で貰える年金がもらえたりもらえなくなったりすること、偶然が年金額を左右するということは後々まで尾を引くかもしれない問題です。
その2、年金の記録が見つかって年金が減る場合がある。
年金特別便の2つ目の問題です。
年金の専門家の間で、このねんきん特別便が始まる前に散々議論されていたことですが、「記録が見つかり記録が訂正されると年金額が減る人がいる」という場合があることは見逃せません。これは、あまりマスコミでは話題にされていませんが、予想以上に件数があるのではないかとうわさされています。それは「記録が見つかって年金額が減る」という心臓の止まるような(お客さんからのクレームを考えると)、経験のある社会保険労務士が少なからず居ることからの想像です(実態としていくらあるか、ありそうかはデータがありません)。話題にならない程度に少ない数なら良いのですが…。
具体例をひとつ挙げるとすると遺族厚生年金。会社に入ってまもなく夫が死亡した場合、加入期間が短いですから、遺族厚生年金の原因となった死亡した方に1年しか厚生年金加入期間がなくても25年加入したとして、働いていた頃の給与の平均(ここは実際に働いていた期間を使う)×25年を基準として計算されます。ところがこの死亡した方にさらに2年の加入期間があったとすると加入期間は3年なり、7年なりになります。 しかし25年未満である限り、加入期間は25年として計算します。
そのとき、後で見つかった2年の間の給与が安いと平均給与もさがるので 悲しいことに平均給与(新たに見つかった給与を入れて計算した平均)×25年で計算される年金額が減ってしまうのです。
老後の年金の場合は平均給与が下がっても、加入期間が増えるので(年金額にはそちらの影響が大きい)年金額は記録の統合で増えますが、それとは話が違います(老後の場合でも加給年金が絡む場合等は例外的に加入記録の統合で額が減る場合もあります。
そうなると、本人への確認なしに記録の整備を行い、年金額を自動的に減額するということはさすがにできないので、やはり本人の申告を待つしかないのです。
また問題が起きないか不安ですが
記録の整備を申し出される方は「年金額が増える」という思いで積極的に社会保険庁に対して記録の整備を協力するわけですから、その結果支給額がマイナスになるというのは、期待を裏切ることになります。本来ならこういうことがあることは丁寧に事前に一般に知らせる必要があるのです。記録を整備したら減額になるのであれば、減額をするのは筋でしょうが、理屈だけで物事を進めてはまた「社会保険庁は傲慢だ」という批判が増えるだけです。
散々、記録不備のまま放置しておいて、あわてて記録の整備をお願いして、協力した人には「あなたの年金額は間違いでしたから減らします(もし年金記録の整備を無視していた人がいたらこれからも年金は減らないでしょうから)、同時に今まで貰っていた分も返してください」ということになると、またまた年金問題で一波乱あるのではと今から危惧しています。
2008.01.15
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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