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知ってビックリ!年金のはなし
第34回 現場が基準を統一しないのは誠に困る
 
やはり出てきた減額問題
 ねんきん特別便について、前回指摘したとおり実際に減額される人が出てきているということも聞きました。社会保険庁は「実態を把握していない」と言っていますが、コンピューター導入前ならいざ知らず、現在は「記録の訂正をした記録を抜き出す」ことはわけないはずです。やる気があればすぐにプログラムを組めるのではないでしょうか。

 年金が減額されるケースで特に問題なのは「実際にその場合の対応をどうするか?」という基準が統一されていないことです。対応は現場の窓口任せということは非常によろしくないことです。

 年金記録の洩れが新たに見つかって、それを訂正してもらおうとすると、やんわりと「年金額が減りそうですよ」と自主的に記録訂正を取り下げるように促す職員、そんなことを一切言わないで、事務的に処理をして後から苦情が来ても、間違った記録を正しくしたのだから問題はないと正論で押し通す職員、どちらに当たるかで全然話が違ってくるのは変ですよね。
社労士もうかつに手が出ない問題
 以前は、記録の訂正までワンクッションあるのが普通でした。減額があり得るレアケースの場合、訂正する記録を出してもらい、これを繋ぎ合わせるとどうなるかを社労士が年金額の計算シミュレーションをしてみます。その上で、減額となるならば何もしないということもできました。しかし最近は、そういうことも困難になりつつあります。

 まず、社労士にもかなり厳しいコンプライアンス(法令順守)を求められる時代になってきました。本来は「金額が減っても法律に沿う処理が正しい」わけですから、「正しくない現状を維持する(年金が減らないようにする)」ことをお客様にすすめるのはかなり立場的に微妙です(かといって、積極的に減額の可能性があるのに記録訂正をすすめるのも信頼を損ねるというところで難しいところです)。

 また、社会保険事務所の職員にも余裕がなくなっています。窓口で、疑わしい記録が出てきたと確認した際に、増えるか減るかを確認することなく、事務処理を優先し(それが本来正しい処理なわけですから)、その場で記録の統合(要するに減額処理となる)を行ってしまう。「自分はこういう会社に勤めていた記憶があるけれど…」ということを社会保険事務所に単に聞きに言っただけなのに、あれよあれよとその場で統合されてしまっても法律的には間違いではありません。これも新聞報道によると、「記録訂正の無理強いはしない」ということですが、それなら今まであるいは現在「減額の可能性を一切伝えることなく、有無を言わせず訂正処理」をしてきたのは間違いだったのかということになります。
年金不信の本質に係る問題です
 年金が減るケースがあることは実務家なら容易に想像がついたわけですから、「実際に減額がある場合を想定して」窓口の事務対応を統一しておかなければいけなかったのです(この問題はもう何十年も前からの問題です)。
 Aさんは、記録訂正をして減額され、Bさんは記録訂正すると、減りそうだからと思いとどまり、職員も柔軟に応じてくれた。年金は一生貰うものですから、仮にその差額が年間12万円(月1万円)だったとしても、20年貰えば、240万円になります。

 漏れた記録を訂正する事務は、国(=社会保険庁)がずさんな処理をしたために発生したものですから、本当はとても気を使わないといけない作業です。一般の民間企業なら、例えば送金額が10万円というところを20万円と間違えて送金してしまったときに、10万円を返してくれとお願いするようなものです。10万円返せというのは正しいことですが、自分が間違えて送金したのは事実なわけですから平身低頭となるはずです。

 民間企業の場合、そういうときにどこまで謝るかはケースバイケースでしょうが、年金制度は国の制度ですから、窓口の事務処理を全国で統一しておくのは当たり前です。そうでなければ「国民の年金への信頼」はまた損なわれます。手続の際の添付書類がA県とB県で違うといったようなさまつな問題ではありません。

 しばらく前から、社会保険庁はマスコミや一般国民からとても批判されていますが、いまだに、なぜこれだけ国民から叩かれたのかの本質がどうもわかっていないような気がするのは私だけでしょうか。

 いくら窓口対応が良くなっても、生涯で何百万円にも影響が及ぶような事務処理をうやむやにしていたら信頼感は戻ってきません。

 (補足)第29回と第31回で、「ねんきん特別便について、疑わしい記録の訂正について昔働いていた会社等のヒントが一切ない状態で、会社名や時期を思い出さないともらえない」対応である旨の説明しましたが、さすがに苦情が多く、社会保険庁も、何らかの思い出しヒントを出す対応に変更するようです。但しその詳細はまだ不明です。
2008.01.28
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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