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知ってビックリ!年金のはなし
第35回 ねんきん特別便を送り直しました
 
送り直しをした“ねんきん特別便”
 話題のねんきん特別便。その行方を心配しながらも傍観していましたが……やっぱり失敗してしまったようです。
 理由は明らか。以前から述べている通りです。
 自分の過去の職歴を完璧に覚えている人が少ないのに、その曖昧な記憶を頼りに記録の訂正申し立てをすることを国民にお願いした国(社会保険庁)の無策ぶり。これに尽きます。年金相談の現場で昔の職歴を聞いても「うーん、その頃のことあまり覚えていないなぁ」と言われる方がたくさんいらっしゃいます。その現状から考えても十分予想されたことでした。
現状認識が甘かった
 年金記録漏れの問題が急に大きくなったのは最近のことですが、今まで何もしてこなかったのではなく、受給者の記憶と社会保険庁の記録が違う場合には「申し出により調査し記録を訂正していた」ということも以前に書いた通りです。社会保険庁側も、漏れている記録については、照会してほしい旨を言い続けていました。しかし、そんな状況でも、年金記録の整備が遅々として進んでいなかったのは、このいかにもあてにできない「人間の記憶」に頼っていたからです。

 記録を整備し、記録の漏れの疑わしい人には「ねんきん特別便」を出したけれど、中身には「あなたの記録は疑わしいものがあります」とだけ書いて、一切国民が思い出す手がかりとなるものは出さなかった。未確認情報ですが、当初社会保険事務所等の相談窓口では「手がかりとなるヒントを窓口であまり出してはいけない」というような指示もされていたそうです。
 これでは、今までの現場での運用(若干のヒント「勤務していた会社の頭文字」などを教える(担当者によりますが)と比較して、逆行に近い取扱になってしまいます。

 すでに今回のねんきん特別便を送付する前に、昔働いていた期間が年金に結びついていないときちんと申し立てした人の分はすでに処理済です。最も救済しやすい層の処理は進んでいたのです。その次の層を中心に、ねんきん特別便を送っているわけですから、ただ「疑わしいから思い出してください」だけでは、返答率も上がるわけがありません。

 さすがに舛添厚生労働大臣も事の重大さに気づいたのか、厚生労働省は窓口で最も疑わしい人には働いていた事業所等のヒントを与えるように方法を変える指示を出しました。やっと気づいたかと歯がゆいばかりですが、一歩解決に向けて前進したことは評価すべきでしょう。もし当初の通り応対していたら、ねんきん特別便が記録の訂正に結びつかず記録の整備等に要した莫大な時間とお金が全くのムダになってしまうところでした。
どちらを優先するかの問題です
 ヒントを出すということは、その内容にもよりますが「加入していなかった人が虚偽の申し出をする」というリスクが増大することでもあります。
 年金記録を整備するためのハードルを上げれば上げるほど、救済される人は少なくなり、下げれば今度は不正受給の危険性が増大します。
 もし不正受給が発生したら、社会的に年金不信を増大させます。しかし、ものすごく疑わしい人に最初に送ったねんきん特別便なのに、訂正を申し出た人が1割を切るという状況はいかがなものかと思います。救済するハードルがあまりにも高過ぎたと考えなければならないでしょう。

 「救済の容易さ」より「年金の正確さ」に重きをおくことは社会保険庁としては仕方ないことかもしれません。その方針転換をさせるのは政治の仕事。解決に向かうように指示を出した政治的判断はよしとしましょう。
 ただ、今後「なりすましの不正受給」が増えることも懸念されます。それはある程度覚悟しておかないといけません。不正受給がおこれば、また年金が批判を浴びることになるのかもしれませんが、リスクを犯してでもあえて救済を優先する必要があります。それほどに今までの体制は杜撰(ずさん)だったということです。
2008.02.25
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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