第36回 44年特例(長期加入者の特例)と3級以上の障害者特例
年金の支給開始年齢を引き下げることによって起こった問題
厚生年金の受給開始年齢は60歳から65歳に移行しつつあります。これによって知らないところで思わぬ損得が発生してしまう可能性が生じるのです。
とある会社員Aさん(昭和23年2月生まれ)は高校を卒業して、すぐに会社に入り転職することなくずっと厚生年金に加入し続けていました。今年(平成20年2月)還暦を迎えたことになります。お勤めは、高校卒業からですので41年と10カ月会社員としてお仕事をされていました。
Aさんの年齢でしたら、普通60歳から厚生年金の報酬比例部分をもらい、64歳から定額部分を併せてもらうことができます。ところが、この定額部分をもっと早くからもらえる人がいるのです。44年特例と障害者特例に該当する理由で会社を辞めた人です。
今回は“44年特例”について触れていきます。まず44年特例というのは何か? ご存知の方も多いかとは思いますが、復習していきましょう。
44年特例(長期加入者の特例)とは?
読んで名のごとく厚生年金に44年以上加入されていらっしゃる方が、退職されたときに定額部分を通常の年齢より早く(退職が条件ですので、退職された時から)もらえるという特例です。
定額部分も報酬比例部分も60歳から支給開始されていた時代(昭和16年4月1日以前生まれの方)はこのような問題は起こりませんでした。定額部分が61歳支給開始、62歳……とだんだん後ろに下がっていく時に発生しました。
しかし、ちょっと前までは定額部分が61歳(昭和18年4月2日以降生まれ)や62歳(昭和20年4月1日以降生まれ)支給開始で、かつ定年が60歳というのが普通でした。中学卒業後すぐ就職されて、かつずっと会社に勤めていた人に限定される制度ということで、あまり該当される人は多くありませんでした。しかし改正高年齢雇用安定法の制定から少し様子が変わってきたのです。
この法律により企業は定年延長を義務付けられました。現時点では定年の基準が63歳になっています。大抵の企業は最低でもそこまでは定年を延長(すでに65歳まで伸ばしている企業も)するようになりました。
仮に定年が63歳の会社があったとします。高校を卒業されてすぐに会社員となって、ずっと厚生年金に加入されていた方も加入期間が44年を超えてしまうのです。つまり中卒で就職された人のみに起こっていた問題が、高卒で就職された人にも起こるようになったのです。
前述のAさんも3年後に63歳で定年退職すると、その時点から定額部分をもらうことができます。「44年特例」が無くとも、本来の厚生年金の仕組みとして64歳から定額部分は出ますので、有効になるのは1年間だけですが、約79万円も従来の60歳定年の場合より多く年金がもらえる計算になるのです。
もしAさんが62歳と2カ月の時点=2年後の3月末日で定年前に辞められたとしてもちょうど勤務年数が44年に達しますから、同じように定額部分がすぐにもらえることになります。この場合は辞めてから64歳になるまで1年と10カ月あります。普通の人との累計の受取額の差はなんと!145万円ほどになるのです。ところが、もしAさんがそれよりも1カ月でも前に会社を辞めてしまったら、この特例が全く受けられないのです。
疑問に思ったらまず相談
たった1カ月の違いで、受取額に150万円に近い差が出るとわかっていれば、普通は退職する日をずらします。
60歳から65歳までの間は、定年があってもさまざまな理由で定年を迎えず、早めに辞められることはよくあります。 もちろん、年金に関係なく働ける体と働ける場所がある限り働き続けるのが、老後の資金準備のためにもベストチョイスではあります。しかしモチベーションや体力が続かないという方も決して少なくはないのです。ここで注意していただきたいのは、人によっては60歳を過ぎて働かれる場合の辞め時です。わずか1カ月で受給額に大きな差が生じる可能性があるのです。
ほんのわずかの違いで、大きな損得が発生するのは公的年金のしくみとしてはいかがなものかと思いますが、制度がそうなっている以上は仕方ありません。疑問に思ったらまず相談。これが基本になります。
2008.02.25
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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