第37回 忘れがちな44年特例と障害者特例(その2)
障害者特例とは
前回は44年特例について説明しました。次に障害者特例(障害状態3級以上の特例)について説明しましょう。
かつて厚生年金に加入していた方が、その後に退職して国民年金に加入し、その国民年金の加入期間中に障害状態になった場合はどうなるでしょうか?
障害厚生年金は初診日において在職中であることが原則ですから、障害厚生年金はもらえません。とても残念なことですが仕方がありません。障害1・2級に該当する場合に障害基礎年金をもらえるだけです。
それではこの方が60歳になった時、普通の方と同じように老後の年金の手続きをすればよいのでしょうか?
この場合、障害等級3級というのは遺族基礎年金の受給要件とはなりませんが、それと同等3級、またはそれ以上(1・2級)の障害状態の場合は、「障害者特例請求書」を1つ添付すると状況がかなり変わってきます。
実例で考えて見ましょう
たとえば今日現在昭和23年3月生まれの方は通常60歳から報酬比例部分、64歳から定額部分の老齢厚生年金をもらうことができます。
ところがこの「障害者特例請求書」を提出し、3級以上の障害状態であると認められると、定額部分は64歳からではなく60歳からと早く支給される。これが障害状態3級以上の特例です。
この方が、会社で20年働き、50歳の時点で退職し、その後国民年金に入っていた(国民年金に入った期間に障害状態になった)という履歴だったとします。そうすると(給与28万円、賞与3.6ヵ月の平均的なサラリーマンとして)、60歳から報酬比例部分が約50万円、64歳からの定額部分が約40万円程の老齢年金となると予想できます。
このとき、前述の「障害者特例請求書」を出し、障害が3級以上相当と認められれば、この定額部分が60歳からもらえるようになります。そうすると60歳から64歳の誕生月まで累計で160万円(40万円×4年)多く年金を受けとるようになれるのです。
現に障害厚生年金を貰っている方でも考慮すべき時があります
それでは、在職中に障害状態になり、障害厚生年金をもらうことのできる方の場合はどうでしょうか?
障害等級1・2級に該当する場合、障害基礎年金と障害厚生年金を受け取ることができます。この時は老齢年金と障害年金を比較すると障害年金をもらうほうが受取額が多い場合が殆どです。ところが3級に該当する場合は受給できるのが障害厚生年金だけですので状況が異なります。
60歳に達する前には老齢年金は支給されませんので、3級の障害厚生年金であったとしても何の迷いもなく障害厚生年金を受給します。
問題は60歳になってからです。60歳になると、老齢厚生年金の支給要件が満たされますので、障害厚生年金のどちらかを貰うという選択になります。例として老齢厚生年金(報酬比例)が50万円、障害厚生年金は60万円(3級の最低保障額です)、であった場合は一見障害厚生年金が多そうにみえます。
ところが、障害等級3級で障害者特例に該当している時は、定額部分を加えて考えないといけません。上の例の方が前述の昭和23年3月生まれであった場合、64歳までの期間において、「報酬比例(50万円)+定額部分」 と 「障害厚生年金(60万円)」とで多いほうを貰うという選択を考えなくてはならなくなります。
ここでもこの特例の制度があることを知っているといないとでは大きく受取額が異なってきます。
そして大切な要件ですが、障害者特例は44年特例と同じく、「会社の退職が前提」となります。もっと正確に言うと、厚生年金の被保険者でなくなることが前提で、60歳を過ぎて社会保険に加入しながら会社勤めをすると、障害者特例を適用することはできません。
2008.03.31
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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