第39回 コロコロ変わるねんきん特別便
また情報提供の方法が変わるようです
また、ねんきん特別便の過去の年金記録情報の開示の仕方が変わるのではという報道がされていました。具体的には、
「社会保険庁は『ねんきん特別便』を、本人ではない人物が本人と名乗り出る事態(いわゆる“なりすまし”)を避けるため、これまでは具体的な年金の記録(勤務していた会社等の履歴)を掲載していませんでしたが、漏れている記録そのものを開示して送付するように改める」という
ことだそうです。
当初、ねんきん特別便を出した頃の取り扱いでは「疑わしい記録のある人であっても誤支給を避けるために過去の年金記録のヒントとなる情報を提供しない」ということでした。その点は、これでは解決策にならないと最初に私が批判したところです。
それが、「場合によって(他に重複情報がない場合には)、問い合わせを受けたら情報提供をしても良い」というようになり、
そして今度は「基本として、最初から疑わしい記録を情報提供する」ということになるのでしょうか。
現場が混乱するのは当たり前です
しかしこれだけ取り扱いが大きく変わっては、現場で一生懸命がんばっている人がかわいそうです。いろいろと批判をされる社会保険事務所ですが、情報提供の方法が変わることによる混乱については現場の人たちに責任はありません。ある意味被害者かもしれません。
ねんきん特別便の事務処理の中で、どこまで情報提供をするかというのは、とても重要な部分にもかかわらず、「何も情報提供するな」「情報提供してもかまわない」「原則として情報提供をする」というように、半年もしない間に方針がコロコロと変わってしまったら、国民も事務スタッフも混乱するのは当たり前です。社会保険庁は大きな組織ですから、昨日今日改めたことが明日からすぐに全員に行き渡るものではないでしょう。
とにかく急ぎすぎていると感じます。
本来なら、どういう場合は情報提供をして、どういう場合はしないのかをちんと線引きし、かつ、どの社会保険事務所に行っても「同じ基準で取り扱い」できるように細かいマニュアルまできちんと整備して準備する必要があるのです。しかし、問題が発生した昨年から実施までがあまりにも準備期間が少なかった上に、さらに同時進行で取り扱いを変更しながら運用している現状ではそんなことはとても望めません。
急げ急げといわれるのですが
とにかく解決を急げというのは政府、与党、野党も公言し(公約にもなっているので)、かつ新聞の社説等までが頻繁に主張しています。しかし、本当にそれで良いのでしょうか?
「何はともあれ社会保険事務所にすぐ行きなさい」とお客様に言う事は私にはなかなかできません。とにかく地に足を付けてやりましょうとアドバイスしています。これは「5,000万件の記録をなるべく早く少なくしたい」という社会保険庁の意向に沿わないのかもしれませんが、決して意地悪したくていっているのではありません。
1カ月で1万円の年金の違いがでるならば、1年で12万円になり、20年で240万円になります。お客様の大切な「お金に関すること」を当の本人もよくわからないのに急がせてしまうのは抵抗があります。あとからのクレームの危険性もありますし、正直怖いです。さらにはねんきん特別便自体の最終形が、スタートしてから相当経過していても明確になっていないという不安もあります。
そして最も大きい理由が、今回のねんきん特別便を機に、年金に興味を持ったお客様の「他の年金もらい忘れ(基金とか共済とか)リスク」をチェックし、もらい忘れになる危険性を早いうちから潰しておきたいということがあります。特別便で解決されるのは、あくまで厚生年金・国民年金の記録の漏れの部分だけで、「それ以外の原因のもらい忘れのリスク」は減っているわけではありません。そしてそのチェックをするには少し時間がかかります。
年金という大切なものを、急ぎすぎるのはかえってよくないことのように思えるのですが。
2008.04.28
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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