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知ってビックリ!年金のはなし
第44回 口で言うのは簡単ですが実際になると大変です(2)
 
辞める時期も正確に
 さて、第43回の奥様ですが、辞めるとなると、いつ辞めるかということを厳密に計算しておかなければなりませんでした。
 9月半ばで退職ということは、8月末までが加入期間です。資料を見るとその時点で242カ月(20年と2カ月)、逆算すると7月末で241月、6月末で240月、5月末で239カ月。加給年金や振替加算をつけるためには、6月末まで働いていたらまずいということになります。

 被保険者の期間は6月30日に辞めると6月分を丸々加入期間として計算しますから、その前日6月29日までに辞めなければならない。

 ご相談を受けたのが5月の半ばでしたら、事態は急でした。当たり前ですけれども、退職するというような重要なことは「早めに会社に言うこと」が引き継ぎの問題もあり世間一般のマナーです。
 セミナー等で話をする時は、実例ではないですから、「240カ月を越えたら」云々とさらりと言ったりしますが、実際の場面に直面すると、その240を正確に確定する必要があり、ややプレッシャーになります。やはり机上の世界とは違います。
うっかりするとすぐに間違えてしまう年金
 後日談ですが、この年金相談の途中で、恥かしながら、私は説明を間違えてしまいました。加給年金を396,000円と説明したのですが、この方のご主人は昭和15年の早生まれでしたから261,500円が正解だったのです、あわてて訂正の連絡をしましたが、本当に怖いことです。

 また、社会保険事務所の方は自分よりもさらに重要な事を間違えていました。
 この方は、35歳までの厚生年金期間が4年、35歳を過ぎてからの期間が15年とちょっとの加入履歴でした。

 担当職員がその記録を見た瞬間、「あれ、厚生年金に35歳以上15年加入されているから厚生年金の特例に該当し、加給年金がついたり、振替加算がもらえたりできないですよ、何をしてもだめですよ」とおっしゃる。

 「いや、それ違いませんか、よく見てください。この方は昭和23年の生まれですから35歳以上の期間であれば15年ではなく17年以上必要で要件を満たしていません。夫の加給年金につき、妻に振替加算がつくのに問題ないはずですよ」
 私はすぐ突っ込みを入れましたが、普通の人が相談に行った場合はどうでしょう? 職員に15年以上あるからダメですよと言われてそのまま帰ってくるかもしれない。それ以前に相談に行かないかもしれないですね。
加給年金は本当に難しいです
 「年金があまりに複雑すぎてわからない」というのはよく言われていることですがこのケースなどはその典型例です。1カ月の違いで受取額が大きく違い、しかもその要件やら金額が細かく生年月日により変ってきます。
 これを、一般の国民に、自力で考えろというのは無理な相談です。国民が全員加入しなければいけない年金制度なのによくわからないことがたくさんあるというのはほめられたことではないですよね。でもこれが現実です。そのわからないものの最たるものの中の一つが加給年金、振替加算なのです。
何が重要かわからなくなる
 話は変りますが、年金相談で60歳を過ぎて会社で働かれている方で、年金は給与に応じてカットされるということを聞いて、「じゃあ給与下げたら年金がもらえるんですね、会社に言ってみようか?」 とおっしゃった方がいました。

 これも加給年金の時と同じく陥りやすい罠です。当たり前ですが、年金が在職中で一部カットされたり全額カットされたりしたとしても、給与が多いほうが当然有利なのです。

 第41回で、加給年金を全部もらうために社長の給与を下げる云々の話をしましたが、これも「何も考えずに給与を下げるより、よく考えて給与を下げるととてもお得ですよ」というお話です。業績が悪くない会社の場合は、役員報酬を下げる必要は全くありません。よく考えてから実行しないと罠に陥ってしまう可能性もあります。
2008.07.07
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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