第47回 年金保険料の国庫負担が増えるのに、保険料を上げる
難航している国庫負担率引き上げ
国民年金の国庫負担はご存知のことと思いますがその費用の3分の1は国が負担している(正確には現在は3分の1よりもうちょっと多いのですが)状況です。
その負担額を2分の1に上げることについて、必要とされる2〜3兆円の財源をどう工面するかが消費税率の引き上げを含めてあれこれと議論がされています。このあたりは新聞報道等でご存知かと思います。
早めに財源を確保しないと年金制度の運営があやしくなるものの、早急に国民に負担を求める(増税等)と、景気に悪影響を与え、選挙にも影響を与えてしまいます。本当に舵取りが微妙な話ですが、一旦決まったことなのに政治家の皆さんはその実施には及び腰です。
素朴な疑問
お客様に、「あれ、国庫負担を3分の1から2分の1に上げるということはその反動として保険料が下がるということ?」と聞かれたことがあります。
国民年金の保険料は、個人の納める保険料+国庫負担で成り立っているわけですから、国庫負担額が増えれば、保険料は当然減るだろう素直に考える人もいらっしゃるかもしれません。保険料が毎年上がっていくのは年金に携わっている人には常識の話ですが一般の人はそうではありません。
そんなとき私は「いやいや、当初に決められたとおり国庫負担の増減にかかわらず保険料は上がっていきます。」そうお答えして少しずつ説明を始めます。
国民年金の保険料は最終的に平成29年には16,900円となり(決定済)、国庫負担は2分の1となるということは、国庫負担を含め月々の保険料は33,800円になるということです。つまり、国庫負担も増額し、国民の保険料負担も上げるというダブルの引き上げをしているのです。
平成16年に保険料の値上げが決定されたときの保険料が13,300円で国庫負担が3分の1でしたので、被保険者ひとりあたりの保険料は19,500円と考えることができました。
そう考えると、平成16年に保険料値上げが始まってから平成29年までの12年で、ひとりあたりの保険料が1.7倍に上がるということになります。私たちの負担する保険料だけをみれば、13,300円から16,900円へ1.27倍に上がる(納付する側から見たら大変ですが)だけにみえますが、国庫負担分を考えるとそうではないのです。
しかもこれは物価が落ち着いている場合であって、それよりも物価が上がればそれに連動して保険料はさらに上がるようになっています。つまり名目ではなく実質保険料を1.7倍にしているわけです。
年金の持続可能性と未納
全く個人的見解ですが、年金はつぶれる、崩壊すると言う人は、1.7倍に保険料を値上げした場合の影響力を過小評価しているように見えます。今後の少子高齢化の影響にもよるでしょうが、保険料をこれだけ上げるということは持続可能な方向をちゃんと模索していることの表れであるかもしれません。
また負担増の国庫負担の2分の1の財源については、所得税なのか消費税なのか、いずれにせよ結局自分たちが負担した税金が当てられるわけです。
簡単にすると、100円の物を買うのに50円を自分たちの財布から払い、50円を国が払ってくれると思ってもその50円も結局は自分たちが別な所で負担したものが回りまわって充当されているというわけです。
したがって、国民年金保険料の未納は本当にもったいないことなのです。未納=50円を払わなくて得したと思っても、実は将来に年金として国庫負担の50円分を返してもらえないという選択をしていることになるからです。
それはともかく、こんな大幅な値上げになっているということ、ご存知ない人の方多いですね。
2008.09.08
|
執筆者:桶谷 浩
|
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
|
|
|
|