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知ってビックリ!年金のはなし
第48回 後期高齢者医療制度保険料の年金からの天引きの問題
 
一体何が起こったのか
 政府は先月7月に、保険料納付の方法を年金からの天引きと口座振替との選択制とすることなどを盛り込んだ政令改正を閣議決定したということで、一旦天引きに決定した人も10月分から口座引き落としができるように制度が変りました。

口座振替が可能となるのは、
1.同制度の導入前に入っていた国民健康保険(国保)で、直近の2年間に国保保険料の滞納が一度もなかった人

2.年金収入が年180万円未満で、後期高齢者医療保険料を肩代わりできる配偶者や、世帯主である子供がいる人

のいずれかの人だそうです。
納付方法だけの問題ではありません
 ところが、2.の場合は本人の口座だけでなく配偶者や世帯主の口座からの引き落としが可能となり、年金からの天引きと口座引き落としとで損得の差が発生することとなりました。

たとえば夫の年金が20万円、妻が10万円の夫婦がいたとします。

 夫の収入は20×12=240万円で、それを基礎に後期高齢者医療制度の保険料が計算をされます。同じく妻の保険料も10×12=120万円を基礎に計算されます。そこまでは変わりません。
 ところが、この場合の妻は上の2.の口座振替に該当することとなり、「配偶者(夫)の口座から保険料を引き落としすることができるようになった」これが上で説明した後期高齢者医療制度の保険料の取扱い変更です。

 後期高齢者医療制度の保険料は全額社会保険料控除の対象となります。原則どおり妻の保険料を妻自身の年金から天引きするのであれば、妻は120万円の公的年金等控除が適用されるのですから、妻の払った後期高齢者医療制度の社会保険料控除額があってもなくても、妻の税負担はゼロで全く意味がありません。

 ところが夫の口座からの引き落としができると、妻の分として支払った保険料分を夫の社会保険料控除として使えるようになり様子が変わります。

 夫が支払う税額は、妻の支払うべき後期高齢者医療制度の保険料=社会保険料控除分が控除されて計算されますから少なくなります。

(参考 国税庁のサイトより)
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h20/7152/index.htm

わかりにくさは相変わらず
 ということで、問い合わせが役所の窓口に殺到しているかといえばどうもそうでもないようで、わかりにくいが故なのか該当者が少ないのか、理由はわかりませんが動きが鈍いと一部の報道がされていました。あれだけ年金からの天引きを叩かれて、あわててそれを修正したのに国民から何の大きな反応もないようでしたら、考えた厚生労働省の人もがっくりですよね。

 公的な健康保険や年金のことで知っていると知らないで損得が発生するというのは本当に困ったことです。健康保険とか年金の不信に直結する問題だからです。

 自分が年金天引きされた場合と夫の口座から保険料を口座落としされた場合で、税金が違ってくるのです。一般の国民は、税金のことも年金のこともそう詳しくありませんから、年金からの天引きと口座振替で「どうも損得が発生するらしい」などと井戸端会議で噂が飛べば、不安で落ち着いていられなくなるかもしれません。案内不足で後から損をしたことに気づいたら市役所や社会保険事務所に怒鳴り込みたくなる気持もわかります。

 ただでさえ評判の悪い後期高齢者医療制度ですが、わかりづらいというのもその一つの要因です。ところが今回の施策はさらに拍車をかけてしまったようです。年金も制度自体の問題ではないものの、後期高齢者医療制度のとばっちりで年金の方も叩かれてしまうとは、まったく困ったものです。
2008.09.08
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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