>  知ってビックリ!年金のはなし >  第50回 繰上げか障害年金か
知ってビックリ!年金のはなし
第50回 繰上げか障害年金か
 
性格で分かれる繰上げ
 65歳で受け取る国民年金を、65歳前に早く前倒しして受け取る支給のことを繰上げ支給というのは皆さんよくご存知かと思います。

 その繰上げ支給ですが、年金相談をしていると面白いことがわかってきます。
 保険料を支払う期間は40年と長いですから、ずっと年金保険料を天引きされるサラリーマンでない限り、納付期間の中に未納等の期間が少々あってもやむをえません。しかし性格的にきちんとされている方は、ぴったりと40年間の納付期間を満たしている方、あるいはカラ期間があってもそれ以外の納付義務のある期間は未納なく保険料を支払われている方が大半です。

 そんな未納のないきちんとされている方は、年金を受け取りになられる場合も「65歳からもらえる年金を繰り上げて(減額のペナルティを受けてまでも)受給する」ということに抵抗を感じる傾向がある気がします。もちろんそういう傾向があるというのには統計的な証拠があるというわけではなく、自分の経験であるわけですが。
繰上げしそうにない方が繰上げを口にされる時
 さて、そんなきちんとした方で普段なら絶対におっしゃられないだろうというような方がたまに自分のほうから繰り上げ支給を申し出られることがまれにあります。

 そうなると、こちらは「はて何かあるのかな?」 と身構えてしまうのです。

 この前、年金相談をされた方もまさにそうでした。年金記録を見ると、未納期間がまったくありません。そこで通常の年金受取りのご説明をしていたところ、急に繰上げ支給の説明を求められました。

 これは何か訳があるのだろうな、とその理由をお聞きしました。

 予想したとおり、自分は「ガン」なので年金を少しでも早くもらうことを考えているとのことでした。

 以前にもガンを患っていらっしゃって、年金を早く受け取りたいという方がいらっしゃいましたが、普通の人よりも自分の寿命に対する不安が大きく「できるだけ年金を早くもらいたい」というお気持ちになられるのも無理はありません。

 もちろん、繰上げ支給の説明をその場でしましたが、年金相談はそれだけでは終わりません。

 こういう場合、忘れがちになりますが「障害年金」というものがあります。
有利な障害年金の可能性もあるので
 このお客様にも、年金を早くもらうことは可能ですが、ご自身の病状によっては「障害年金」を受け取ることができ、なおかつその額は(額は一般的に多いし、同額であっても非課税である点等)とても有利になります。

 このところの判断は非常に微妙です。

 病気が再発して、万一早く亡くなってしまうような場合には繰上げ支給のほうが受取り総額の面からすると有利ということになります。しかし、病気が悪化し障害状態になり、療養介護にお金がかかるならば、障害年金のほうが断然有利になります。

 以前はガンであれば、その状況にもよりますが、進行が早いということで「繰上げもやむをえないかな」という判断も結構あったと聞きます。しかし今はガンといえどもきちんと療養をすることで、再発が防げたり、進行を遅くすることができたりします。ガンだからと言って「即、繰上げ支給」なんて言えないのです。

 結局、今回のご相談では、「もちろん繰上げ支給もできますが、病状が今より重くなった場合には、お医者さんに障害年金の可能性をお伺いしてから、繰上げ支給を検討する」というアドバイスをし、お医者さんに見せるための障害年金の認定基準のコピーを差し上げました。

 巷でよく言われている、「早死にしたら繰上げ支給のほうが有利」ということを、病気をお持ちの方は特に意識されるものですが、同時に「障害状態になってしまうと繰上げ支給は不利」ということが裏表の関係で常に付きまといます。繰上げ支給を選択してしまうとその後に障害状態になったとしても障害年金の受給資格は得られません。そういった意味もあり、ご病気の方の年金相談は健康な方の相談に比べ、慎重に対応していく必要があるのです。
2008.09.29
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
  ページトップへ