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知ってビックリ!年金のはなし
第51回 年金記録改ざん問題(1)
 
自分の給与と年金の関係がよくわからない
 年金記録改ざんの問題で世の中がゆれています。政府厚生労働省も本格的にこの問題に対応をすることを決定しました。今回はこれについて考えてみたいと思います。

 年金相談に行くと、「老後の年金は何で給与と調整されて減額されるの? どうして社会保険事務所は私の給与を知っているの?」というような質問をされるお客様がいらっしゃいます。一般の方は、働いている会社から役所(社会保険事務所)に毎月の給与が報告されていることをご存じない方も意外と多いのです。

 FPの方はご存じかと思いますが、当然そういう報告はなされています。毎年1回、7月に定例の報告、および給与が極端に上下した場合の臨時の報告は会社が義務として行わなければなりません。
   さて、そうするとその報告の中身の正確性が問題となります。
 企業が自分の責任で、この従業員は給与が28万円、この従業員は給与が30万円という報告をする、つまり基礎となるのは企業の正直な申告であるわけです。社会保険事務所も正直な申告をするという前提で報告の仕組みを作っています。

 こういう届出に間違いがあっては困りますし、さらにそれが意図的なものであれば大変な問題です。実際に支払ったのは給与36万円なのに、社会保険事務所への届出は28万円にした、そんな怪しい事例がここにきてたくさんあるようなので問題になっているのです。
改ざん問題の実態
 報道によると、社会保険庁が改ざんの疑いが濃いとした事例は9万6千件ありますが、それは
〈1〉 加入者の月収の記録である「標準報酬月額」(9万8,000円〜62万円まで30等級で示す) を引き下げる処理と、加入者を年金制度から脱退させる処理が、同日かその翌日に行われている
〈2〉 標準報酬月額が5等級以上引き下げられている(5等級引き下げの場合、最大15万円引き下げ)
〈3〉 6カ月以上さかのぼって後から標準報酬月額が引き下げられている

の3つの条件を全て満たしているものを集計した数となっています。

 ところが〈1〉〜〈3〉のいずれか1つに該当するものとなると合計で143万9千件になるそうです。

 当たり前のことですが、給与というのはそう簡単に下げられるものではありません。プロ野球選手等の年俸ならともかく、普通のサラリーマンで昨年は給与36万円だったのに今年は28万円になったというようなことは、よほどのことがないとありません。そんなことをしたら会社は労働者の猛反発を食らい、下手をすれば労使紛争に発展してしまいます。

 また従業員の保険料は給与が変ったからといってすぐに社会保険(健康保険・年金)の保険料に反映されるものではありません。保険料が下がって4カ月目以降にやっと、企業はその下がった保険料を基準として保険料を計算し直します。それまでは高いままの保険料が続きます。しかし、経営が火の車の会社は4カ月も待てないので、対応を考えます。よくあるのがまず従業員をいったん辞めたことにしてしまい、同じ日に同じ人をまた雇う形をとるという方法。そうするとその従業員は新規雇用ですから4カ月を待たずに、その月からすぐ下がった保険料を基準に社会保険料を計算できることになるのです(社会保険庁の年金記録に不自然な退職と入社の記録は残りますが)。〈1〉の基準は、同じ日に会社を辞めたりする細工をしている会社は「改ざんの可能性が高い」と判断したということでしょう。

 〈3〉についても、「保険料額の遡及をする」ということですから、保険料が払えなくなってから未納分が何カ月分かたまった場合に困って後付けで改ざんを思いつく可能性が高いということで事務手続きの怪しさを推認されるということでしょうか。
社会保険料の会社負担は経営者の大きな悩み
 社会保険の保険料はご承知のように労使折半です。
 ですから加入義務がある従業員を加入させなかったり、あるいは加入した従業員の給与を低く申告したりすると、企業負担分の保険料が浮くわけです。高い保険料負担は企業経営の悩みの種、社会保険(健康保険、年金)の使用者負担がなければどんなに会社経営が楽かということは、中小企業の社長さんからよくお聞きします。今では、社会保険料の会社負担は法人税より厳しいとおっしゃる社長さんもいます。
 苦しいから不正をしてもいいわけはありませんが、保険料負担の重さが不正の原因となったのは間違いないでしょう。
2008.11.04
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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