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知ってビックリ!年金のはなし
第52回 年金記録改ざん問題(2)
 
社会保険事務所側の問題
 前回(第51回)の続きです。「お金が払えない=未納の可能性がある」企業に、社会保険事務所はどう反応するのでしょう?

 当たり前ですが、法律をきちんと貫くのであれば「無理してでも払ってください」というしかありません。会社であれば必ず支払わなければならない費用なのですから、本来払ってもらえなければ強制執行をも視野に入れて動くべきです。どうしても払えなくて倒産してもそれは自然淘汰です

 しかし、そういう筋論だけで通らなかったのが今回の問題です。

 少し前ですが、社会保険の全喪ということが話題になっていました。
 本当は厚生年金を脱退することはできない(従業員がいなくなったわけではない=厚生年金は強制加入ですから)にもかかわらず、「わざと社会保険の適用を受ける社員が1人もいなくなった」ことにして、社会保険から抜けるという偽装をしたのです。社会保険の適用者が誰もいなくなることを通称「全喪」といいますが、この方法を「社会保険事務所の側から勧めた」という事例が少なからずあり、社会的に問題になったのです。

 そして今回の記録改ざん問題でも、会社と社会保険事務所がグルになっているものが相当あるのでは、という指摘があちこちでなされています。

 とんでもないことですが、社会保険事務所側から勧めたのではないのかといった疑念も湧いてきます。 社会保険事務所としては、全喪の会社は未納率の計算基礎の対象外のため、納付率が上がりますし、保険料を安く改ざんした場合も、従業員全体の保険料が100万円なら払えないけれど50万円なら払える、という会社もあるでしょうから、納付率は間違いなく上がります。

 会社側には「納付する保険料が減る」というおいしいところがあるわけですが、社会保険事務所の側にも「納付率が上がる」うえに「未納分の徴収という面倒な仕事が減る」というおいしいところがあるのです。
 年金記録改ざんの問題で世の中がゆれています。政府厚生労働省も本格的にこの問題に対応をすることを決定しました。
とばっちりは従業員に
 そして悲しいことに、従業員の側はそんなことをされてもそれを知る手立てがないのです。厳密には社会保険事務所に行けば自分の加入記録を見ることはできるのです(保険料を払った当時の標準報酬月額がわかります)が、そんなことができるなど、知っている人はほとんどいませんし、逐一(例えば5年ごとに)年金記録を確認している人に、私はいまだに出会ったことがありません。みんな勤めている会社を信じ、社会保険事務所を信じてやってきたのです。
何が原因だったのでしょう
 この記録改ざん問題も、本質はねんきんの宙に浮いた5,000万件のときと同じく、被保険者(国民)に今まで情報を開示してこなかったことにそもそもの原因があると思います。

 年金記録も、毎年あるいは何年かごとに「あなたはどこでどういう形でいくらの給与で働きました」という記録が送られていれば、「あれ、年金記録がおかしいぞ」とすぐにわかったはずです。年金に関心がない人もいますが、納付の記録が間違っていればクレームを申し立てる人も多かったと思われます。

 情報開示がなされていれば、今問題になっている改ざんのような悪質なものでなくても、うっかりミスで報酬額が違っている場合の訂正もきちんと行われたでしょう。

 年金は40年掛けて20年間もらうというようなとても息の長いものですが、息が長いが故に、自分の年金がきちんと事務処理されているかは、その都度、節目節目に本人がチェックすることがとても重要になります。

 国会でも大学の先生が「中小、零細企業では経営が不安定で、保険料滞納が起きやすいのに、制度的な対応を用意していなかったことに問題がある」と述べられていますが、やはり一番の不正防止の抑止力となるのは「将来年金を貰う従業員自身の自覚」なのです。

 さて、今回の改ざん問題の対処も、証拠の壁が大きく立ちはだかります。20年前、30年前の給与明細をきちんと保存されている方はとても少ない(いないと思ったほうが良い)でしょう。給与明細があれば天引きされている保険料がわかりますし、当時の保険料率もわかりますから不正かどうかすぐわかります。しかしそういう人はまれです。
 この問題について、現在は戸別訪問などにより実態を把握ということですが、どういうふうに解決を図り、どの範囲までの方を救済するのでしょうか? 年金記録の問題もそうですが、あまりにも昔のことは証拠となるものがほとんどなく、解決はとても困難になっています。
2008.11.04
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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