第53回 年金額の計算式を教えてくれという意見
新聞の投書欄で
新聞の投書欄に、一般読者の方が最近の年金の混乱状況をみて「年金支給額だけじゃなくて、年金受給の際にきちんと年金の計算式と計算過程が書いてあれば、誰かが間違いに気付くのに」という意見を書かれていたのを読みました。
今回はこの意見を取り上げてみます。たしかに一見するとこの方の意見はとてもまともな意見に思えます。きちんと計算式を出してもらえれば、自分がわからなくても何かの際に間違いも見つかるだろう。一般の人がそう思うのも無理なからぬところです。
どこが原因で年金は正確に計算されないか
年金額はコンピューターで計算されています。数字の四則計算はコンピューターが最も得意とするところですし、年金額の検算確認もコンピューターソフトの会社に依頼している段階で、かなりチェックが入っているはず。ゼロとは言いませんが、年金額を計算するような部分での間違いはまずないと思ったほうが良いと思います(実際に見かけることはありません。)
ではなぜこれだけ世の中に間違いがあるのかといえば、その計算する前段階、計算根拠である、「年金加入期間またはその間の報酬が違う場合」があるからなのです。
きわめて大雑把に言えば、厚生年金は、標準報酬(月)額(=給与)×加入月数(=働いた月)×スライドで求められますから、
「働いた月=つまり厚生年金に入っていたのに入っていないかったことになっているか否か」
あるいは
「標準報酬(月)額=入っていたときの給与が不当に安くなっているか否か」
ここが違えば年金額は正確に計算できません。
あれっ、これはどこかで見たことがありませんか?
そうなんです、最初の「加入期間」の問題こそが年金期間の記録漏れであり、現在ねんきん特別便で調査されているところです。そして「給与の部分」は前回、前々回の年金記録改ざん問題で触れたところなのです。
実際にやっているところもありますが
公務員等の共済年金では、冒頭に投書をされていた方が希望するように、支給額決定の際の通知に、計算式が書いてあることが多いです。
しかし、その共済の計算式をみて、受給者が「間違いを発見した」という話はあまり聞いたことがありません。そういう計算書類を元に、何が書いてあるのかさっぱりわからないと電話をかけたり、年金相談に計算書類を持って来たりされる方が普通です。
しかも、共済の場合の貰い忘れは、公務員になる前あるいはなった後に制度の違う「厚生年金」に入っていて、その期間の手続漏れがある場合が圧倒的です。
原因は、現在管轄が異なるためで、共済では厚生年金のことに、厚生年金では共済のことに触れません。それぞれの手続書類にお互いの内容も記されていません。
共済の例を考えてみても、計算式が書かれていたとしてもそれで間違いが見つかることはないと思っていいでしょう。年金の漏れは計算式以外のところで起こっています。
安心感を増すために
厚生年金の証書は共済のように計算式こそ書いてありませんが現在でも「標準報酬(月)額」と「加入期間」と「基金の加入期間」等の計算の元になる数字書かれています。ですから、証書があれば正確に年金額が計算できます。計算式そのものは書いていなくても、その計算根拠となる要素は書いてある状態は即ち、プロからみると計算式が書いてあるのと同じ状態なのです。
残念ですが冒頭に紹介された投書を行った方は、その辺がおわかりになっていなかったのでしょう。しかし、計算式を具体的に例示することで一般の人が安心する効果があるのであれば、それも行うべきなのでしょう。それで満足する人が多いならばいい方向かもしれません。ただし、計算式ってこれ一体何ですか? と社会保険事務所に駆け込む方が増えてしまうという弊害も考えなければなりませんが。
2008.12.01
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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