第55回 年金の何がわからないかが、わからない?
私の疑問は一体何でしょう?
先日の年金相談会で最初にいらっしゃった男性は、開口一番「金融機関から案内のはがきが届いたのでやってきたけれど、一体年金の何を聞いたらいいのかわからない」とおっしゃいました。
年金に興味のないお客さまは、相談会へのお誘いがあっても実際に足を運ばれることは少ないのですが、時として何がわからないかがわからないようなお客さまが来られることがあります。
その男性が続いて言われるには、「国のやっている年金というのは、自分の過去の年金記録で年金額を計算するだけだし、それは社会保険庁が行っているだろう。今は「ねんきん特別便」で年金記録の調査をやっているから、記録の問題は個人的に確認する必要があるだろうが、問題がなければ手続きをすればいいだけだろう? 一体なんで民間の金融機関がこんな相談会を開くんだ?」
いや、理屈はおっしゃるとおりです。現実に、年金は手続すればよいだけだから、民間の(私たちが普段担当するような)年金相談なんか不要と声高に叫ばれる方もいらっしゃるくらいですから。
まあまあ落ち着いて
年金相談に来たお客さまに年金の話をせずに帰っていただくのはさすがに問題がありますか
ら、とりあえず座っていただき、そのお客さまの現状を把握することから始めました。
聞き取っていくうちに、お客さまは現在会社にお勤めで、60歳を過ぎても働かれるつもりということがわかりました。
そうなると話は早いです。聞き取りの途中で論点とその解説がこちらの頭の中に浮かんできます。60歳を過ぎて会社で働くと「年金はもらえますが、その額が年金と給与の額で調整されますよ」(在職老齢年金)、「その後に会社を正式に辞めた場合、雇用保険をもらうとその間年金が受け取れませんよ」、また「退職後に健康保険を任意継続すると国保に入る場合より有利になることがありますよ」「第3号被保険者(サラリーマンの妻)の場合、夫が60歳を超えて継続して会社で働いた場合、奥さまが60歳未満であればそのまま第3号被保険者でいられますよ」。ご説明することはヤマのようにあります。
偶然、次のお客さまがいらっしゃらなかったので、たっぷりと1時間近くかけて説明しましたが、お客さまの表情がどんどん変わっていくのがわかりました。
自分ではわからないけれど他人に指摘されると、「ああ、そうか。そういうことも問題になるよな」ということがやっと見えてくるわけです。
疑問が浮かばないことによる不安
世の中には、情報が溢れています。「若いころから掛けていって、一定の年齢になったら手続きをして年金を受け取る、それだけのことで年金制度はとても単純なはずなのに、実際の年金の仕組みは難しすぎてさっぱりわからない」。だから「ひょっとして自分は大切なことを知らないでいるのかもしれない」と、不安になる方も少なくないのですが、さりとて本や雑誌で勉強する気も普通は起こらない。そこで、わざわざ、半信半疑であっても時間をかけて年金相談にいらっしゃるのです。
今回のように極端ではないにせよ、年金相談で、何を聞いていいのかわからないとおっしゃる人は意外と多いのです。その場合はお持ちになった資料を全部見せていただいて、こちらから問題点を指摘するという作業を行います。そこでその問題を説明すると「相談に来て本当によかったな」という人も出てきます。自覚症状がない人が健康診断を受けて病気が見つかったような感じでしょうか。社会保険事務所の窓口では、私は何を相談したらいいのでしょうと言えないでしょう。
年金受給前の人がねんきんダイヤルを使わない理由
この原稿を書いていて、ねんきんダイヤル(社会保険庁が行っている電話による年金相談)のことを思い出しました。「年金でわからないことは何でもねんきんダイヤルで聞いてください」と社会保険庁は宣伝しているのですが、何をどう聞いていいかわからないと電話すらできません。年金を貰い始めているのであれば、「年金が振り込まれない」とかいろいろと疑問が目に見えているため電話がかけやすくなるようで、年金受給前の方の問い合わせのほうが受給開始後の方のそれより少ないのだとか。実務的には貰い始めてからより貰う前のほうがはるかに重要なのですが。
自覚(=年金への疑問)がなくても、病気(漠然とした不安)がある限り、積極的に検診(=年金相談)にお越しいただきたいものです。興味がなくても検診で問題点が見つかることもあるのです。
2009.01.13
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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