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知ってビックリ!年金のはなし
第58回 学生の国民年金の加入
 
原則と例外がひっくり返っている
  私の知り合いの社会保険労務士が、大学生の娘が20歳になったので、年金の手続に行こうと市役所に出向いたら、何も言われずいきなり、「学生納付特例」の用紙を出されたそうです。
  その社会保険労務士は、「娘の国民年金に付加年金をつける申出をするために」出向いたのですが、現場の人は「大学生イコール学生納付特例」と無条件に反応してしまったようです。それだけ申し出る人が多いということでしょうが。

  でも、もういちど「学生納付特例」という言葉を眺めてください。「特例」と書いてあります。原則ではないのです。大学生は原則納付特例の手続をするべきではなく、保険料を納付するのが原則です。そして保険料を納付するのなら、「付加保険料をつける」のがベストです。この社会保険労務士はきわめて合理的な判断をされたのです。
高学歴社会に潜むリスク
  国民年金、厚生年金は、40年間保険料をかけて、その後20〜25年の老後の生活費を賄うという仕組みです。
  しかし、大学を卒業して、大学院、修士、博士課程まで出て、研究機関を探して就職となるとあっという間に年齢が30歳を超えてしまうことも珍しくありません。
  40年間の保険料納付で満額80万円(月6.6万円)が国民年金の年金額です。学生納付特例で20歳代に保険料の納付をせず、30歳以降30年間しか国民年金に入っていないとなると、60万円(月5万円)程度の国民年金額にしかなりません。
  就職した後、納付特例時の保険料をさかのぼって納めるのならばよいですが、その時点で何かと人生の出費が多かったりすると経済的にそれも厳しいかもしれません。

  就職後は厚生(共済)年金に加入し保険料を払うのですから、老後に厚生(共済)年金プラス国民年金が受給できます。国民年金のみずっと60歳まで掛けた人より年金は多いでしょうが、高卒あるいは大卒で20歳前後から会社で厚生年金に加入していた人と比較すると、加入期間が短い分、よほど待遇(給与)が良くないかぎり年金は相対的に少ないということになってしまいます。
自助努力といいますが
  大学生の子どもがいて学費等の仕送りで精一杯で、「とても国民年金保険料を支払う余裕がない」というのであれば、学生納付特例を利用されることに全く異論はありません。
  また、子どもたちの老後は自分たちで何とかすべきであり、親があれこれ心配する必要はない、という考え方であるならば、学生納付特例を利用されることに全く異論はありません。それはそれで一つの立派な考えです。

  しかし、「理工系で、大学院に行く可能性が高い」あるいは「海外留学等の予定があって、卒業して社会人となるのがかなり遅くなる可能性がある」などの場合、社会に出るのが遅くなればなるほど老後の年金については不利になり、年齢が高くなると老後生活への不安が増してきます。

  親が子ども世代に現金として財産を残すのもありですが、こういう形で親が子どもたちに年金を受ける権利を残すのもありなのかなと思います。
  自分たちが亡くなった後、子どもが60代、70代になって「ああ、学生時代の年金は親が払ってくれていた。ありがたい」と思われるだけでも、保険料を払った甲斐があるというものです。
将来のことは分かりませんが…
  年金制度の将来は全く分かりません。
  現在20歳の方が、65歳になられたときにはどんな年金制度となっているのか皆目見当もつきません。
  だから、将来の分からない年金制度の保険料を支払うことに不安があるかもしれません。そういう年金不信、年金不安の話はよく聞きます。
  しかし、時代をスライドしてみると、現在年金手続をされている60歳〜65歳の方は、昭和40年代に全く同じ状況だったのです。昭和40年代に、遠い自分たちの老後を考えるということは、今より平均余命が短い当時、もっと困難であったはずです。そしていつの時代にも「将来、年金がもらえるのか分からない」という「年金不信」はあったと聞きます。

  60歳前後の方とお話しすると、「あっという間に60歳になっちゃったね」と多くの方がおっしゃいます。人間は思ったより早く年を取るのです。準備は早め早めが良いと思います。
2009.02.02
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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