第59回 念には念を入れる必要性
年金が出ない?
特に何の問題もなく、もう金曜の夕方、今週もそろそろ終わりかと思ったころにオフィスの電話がなりました。電話をとってみると、お付き合いのある金融機関の方からでした。
「あのー、お客さんでセンセイが説明したように年金額が出てないと言われている方がいるのですが」
ええ、週末になってこんな重大な電話? 一瞬、心臓が止まりそうになりました。
1年を通じて結構な数のお客さまに年金のことを説明していますので、お名前を聞いただけではどなたか分かりません。
さらに事情を聞くと、「中学を出てすぐ就職し、ずっと厚生年金に加入していた」ので厚生年金の長期加入の特例に該当し(詳細は「知ってビックリ年金の話 37回をご覧ください)、60歳で退職したので、定額部分を含めた年金が支給されると相談会で話を聞いたのに、年金が振り込まれないとおっしゃっているとのこと。
本当ならば一大事
いやこれが本当なら大事です。1年につき定額部分80万円と加給年金40万円、合計120万円という少なくない金額の話です。
この方の場合、64歳から定額部分が開始されるのですが、前述のとおり長期加入の特例に該当しますので、60歳から63歳の4年間で、480万円の定額部分と加給年金が受け取れます。年金相談で「もらえます」と言われてあてにしていた年金が振り込まれないとすると大問題になります。もちろん、正しい説明をしてもお客さまが誤解されて(例えば、「もう少しで44年の特例に該当します」と説明したのに、既に該当しているものだと勘違いしている場合など)いるならば、こちらに責任はありませんが、44年特例に該当しないのに「該当します」と言ってしまっていたら大変です。
年金相談というのは、年金の額やもらい方の相談だけを受けるのではありません。会社にお勤めの方には、会社を辞める時期のアドバイスをすることも相談のうちです。
中学卒業後、ずっと会社勤めの方は60歳時点で既に加入年数が44年超ですから、退職後すぐに定額部分も併せて受け取れます。ですから「60歳以降はいつ退職しても結構です」と説明します。
高校を卒業してから会社勤めをした方は、60歳時点でまだ44年に達していませんから(たいていは2〜3年ほどの期間が必要)、かなり綿密に、いつまで勤めたら44年になるかを検討します。最近はこの期間の算出が一番厄介です。
大学卒業の方は65歳までどんなにがんばって働いたとしても44年特例に該当しませんから、最初から説明をしません。
分かってみたらたらヤレヤレなことなのですが
さて、さっぱり事情が読めないので、金融機関の方にはお客さまのところに来た年金証書等の書類のコピーを、ファクスしてもらえませんかとお願いしました。
そして、翌週の月曜日になって、送られてきたファクスを見て力が抜けました。
詳細は省きますが、証書を見ると在職による支給停止となっていることが分かりました。つまりこの方は、誕生日と退職日との微妙なタイミングの関係で、退職ではなく在職している間に年金の支給が開始されたという前提で証書が作られたということだったのです。
もちろんこの方には、ほどなく支給額変更通知が来て、退職を前提とした年金支給額に変更があるはずです。
年金は念には念を入れて確認する必要があります
結果的に私も金融機関の方もお客さまも、最後は笑って済ませられるような話でしたが、肝に銘じたことがあります。それは、こういう特例等の場合、必ず退職前に確認をすること。たとえば「ねんきんダイヤル」に電話して、加入月数の要件をクリアしているか否かを確認してもらうことです(但し電話では本人でないと答えてくれません)。480万円のお金の話ですから、電話で確認するくらいのことをしても少しもおかしくありません。後から気がついて期間が足りないからといって、復職するのは年齢的に極めて困難です。
2009.03.09
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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