第60回 遺族厚生年金は内縁の妻にも支払われますが
えっ、遺族厚生年金の二重払い?
知り合いの社労士さんが、年金相談を受けたとき、ある男性に遺族年金の試算を依頼されたそうです。普段の相談でも「年金額がいくらになるか?」ということを時々聞かれます。割とポピュラーな質問です。夫が亡くなったら、残された妻がいくら年金をもらえるかということは妻のみならず夫としても心配なことです。
ところが、この人の場合は理由が違っていました。
今、妻は遺族年金を貰っているが、もし自分(夫)が死亡した場合、前夫と私とどちらの遺族年金が多いか? ということを聞きたかったのだそうです。
婚姻している人に遺族厚生年金は出ません
この男性の質問が、変なのはお分かりですよね?
そうです。遺族年金は、再婚したら失権してしまいます。結婚している女性に、遺族年金が支払われることはないのです。多分この男性は、妻と籍を入れないで同居する、夫婦と同様の生活をされていたのでしょう。
以前私が相談をお受けした女性は、遺族年金を受取中でしたが、60歳の誕生日に新しい夫との婚姻届を出す(再婚する)とおっしゃいました。
私が、「そうすると遺族厚生年金はなくなってしまいますよ。大丈夫ですか?」と意思確認したのですが、「分かっています。でも人生のけじめですから」とおっしゃいました。年金がなくなることをご理解されているならば問題はないでしょうということで、そこで話は終わりました。
あまり好ましいことではないというか、かなりグレーゾーンに近いのですが、再婚相手ができても正式な結婚の届出はせず、同居という形で「妻の遺族厚生年金を失権させず」にずっと受給して生活をされている方の話はたまに聞きます。
この方はそういう生活を選択されず、きちんとけじめをつける選択をされた、立派な方だと思います。しかし、前述の遺族年金の額の計算を依頼された男性の奥さまは、まさにグレーゾーンに近い方だったのです。
婚姻という概念が変ってきたことにより年金が難しくなる
結婚という概念は昔とずいぶん変っています。
婚姻届を出していない場合でも、実質的に夫婦であれば遺族年金を法律上の夫婦と同様に受け取ることができます(ただし、婚姻届を出した場合と異なり、10年以上の同居とかかなり要件が厳しくなります)。
最近の判例では、法律上禁止されている近親婚(叔父とめい)の場合であっても、実質的に夫婦という関係であれば、遺族厚生年金の受給を認めています。
さすがに最近はこういうことも一般的に知られてきて、手続きをせずに損をしてしまうことも減ったとは思いますが、いまだに「事実婚」の場合は、年金がもらえないということで最初から何もしない人も多いと思います。
まだまだ遺族年金の事実婚について知らない人が多く、たとえ知っていたとしても法律婚の人よりは厳しい条件ですし、証明書類等の提出も一筋縄ではいかないなど、手間がかかるのは事実です。
しっかり知識をつけましょう
同居で夫婦同然でも、加給年金のこともあり、また死亡時の手続きの煩雑さ(籍の入っていない夫婦でないと証明が面倒になる)もあり、なるべく籍を入れたほうが年金的には無難ですよ、とお勧めするのですが、それでも法律上の届出をしない事実婚をあえて選択するなら、もしもの場合に備えてきちんと年金知識をつけておくことが必要です。
遺族厚生年金が年間100万円受給でるとしたら、10年間で1,000万円にもなります。これがもらえるかもらえないかはかなり重要で、見過ごせない問題です。
2009.03.09
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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