>  知ってビックリ!年金のはなし >  第62回 給与明細は大切、なるべく保存
知ってビックリ!年金のはなし
第62回 給与明細は大切、なるべく保存
 
社会保険庁のずさんな管理は減ると思いますが
  昨今のマスコミは、「年金に関しては何から何まで社会保険事務所が悪い」という論調が多く見受けられます。確かにこれまでの経緯をみると、一番責任があるのは国、厚生労働省、社会保険庁です。しかし、年金制度の運営は国だけで行えるものではありません。
  特に企業の責任は大きいのです。企業は従業員に関するデータ(住所氏名等の情報、支払った報酬や賞与の情報)を社会保険事務所に報告する義務がありますが、そこがしっかりとしてないときちんとした年金は支払われません。

  年金記録や情報もここ1、2年で改善整備されつつあり、これまでのように宙に浮いた年金が発生することも今後は皆無とはいわないまでも、激減することになるでしょう。いったん起きた年金不信はなかなか消えることはありませんが、事務は確実に改善されていくと思います。
国の責任、会社の責任
  一連の年金不祥事の一つに「会社からきちんとした報告がされてないために」年金が減額されたり、年金がもらえなかったりという問題がありました。社会保険事務所側から、厚生年金の納付率を上げるため会社の偽装を容認したり働きかけたりした疑いがあったため、新聞等で大きく取り上げられました。

  今後は社会保険事務所がそのような偽装を黙認や手助けをすることはないでしょう。しかし企業経営者のマインド(心の中)は、今回の一連の年金不祥事で変わるものではありません。自分の会社の経営が厳しくなったとき、納付する企業負担分の年金保険料を免れるために、報酬額の報告を改ざん(40万円払っている給与を20万円として報告等)したり、パートタイマーが加入条件を満たしていてもこっそり加入させなかったりということは今後も起こると考えられます。これは社会保険事務所でも発見は難しいでしょう。
請負となっていてもパートとなっていても
  よく一般の人は「請負だから、パートだから、厚生年金は入れない」と単純に考えがちです。しかし請負だから、パートアルバイトだから、加入できないのではありません。請負であれば本当に請負であるか、パートであれば本当に(正社員に比して)短時間の勤務であるかの実体を見て個々に判断することなのです。見掛けより実体なのです。
  本来加入すべき人が加入しない場合で一番問題となるのは、障害年金のケースです。老後の年金の場合には、パートの厚生年金加入は、保険料の個人負担のない第3号被保険者(サラリーマンの妻)を外れてまで入るべきかの損得について健康保険の負担も含めて慎重な見極めが必要となりますが、交通事故による重症で後遺症を負ってしまった場合などは話が違います。厚生年金に入っているといないとでは障害年金に大きな差が生じます。
  不幸にして障害状態になってしまった場合、厚生年金に採用時から遡及加入していたものとし障害年金を受け取るように折衝していくか(厚生年金は要件が調ったときに強制加入でありこの場合に逆選択の問題は起きません)、それが不可能な場合には「加入義務を怠った会社の不作為」について法的に責任を追及することも考えられますが、いずれにしてもすんなりとはいきません。
やはり給与明細は取っておきましょう
  平凡なことと思われるかもしれませんが、このようにややこしい場合を解決するのに、「給与明細」に勝る証拠はありません。正社員の労働時間が週40時間の会社でパートが週40時間働いていた場合は、会社はその人を厚生年金に加入させなかったことについて言い逃れができません。証拠がなければ、会社が否定した場合にお互いの言い争いで結局解決できませんが、ここで給与明細があると、労働時間(パートの場合は時給計算の給与が多いので特に明白です)があっさりと証明でき解決するのです。
  こういう極端なケースでなくても、普通の会社員でも自分の納めている保険料が正しいか否かも明細から分かります。スーパーのレシートのような感覚でその重要性をなかなか認識してもらえない給与明細を、ずっと保存しておくのは煩雑かもしれませんが、なるべく長く、せめて10年分くらいは取っておくべきものなのだというのは、今回の一連の問題を通じて痛感しています。面倒なら、ただ袋の中に投げ込んでおいても良いのですから。
2009.04.13
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
  ページトップへ