第63回 保険セールスのための年金(1)
年金を使ってのビジネスはいろいろあります
年金は自分や家族の老後、あるいはもしもの場合(障害、遺族)に多大な影響を及ぼすことから、国民の関心もとても高いものです。ですからそれを保険セールスのツールにすることは当然考えられますし、実際に皆さんの中でも現場で使われていることも多いと思います。
さて、そんな年金ですが、実際に保険セールスに使おうと考え、いろいろな年金の勉強会に参加しても、自分の聞きたいことをなかなか教えてくれないということを聞いたことがあります。
一体どういうことなのでしょうか?
保険セールスに必要な年金知識とはどういったものなのでしょうか? 今後数回(連続はしませんが)にわたってこの問題を考えてみたいと思います。しばらくの間お付き合いください。
最もポピュラーな年金ビジネスとは
年金ビジネスで今もっとも知られているのは、金融機関の年金相談だと思います。金融機関(銀行、信金、信組、農漁協)が、店舗において年金相談会を実施し、年金受給が近づいてきた、55歳を過ぎた方を中心に年金相談を行い、実際に参加した方の手続きを代行し、最後には自社(自行)の口座へ年金の振込をしてもらう、というのがそのビジネスモデルです。
その目的とするところは何かといえばズバリ、年金の受取口座を自分のところにしてもらうことです。年金は、2カ月に1回振込まれますから、年金口座の獲得は預金量の増加につながります。
実態としては、メガバンクといわれる巨大銀行より、預金量がさほど多くない中小規模の金融機関のほうが預金量増大のために熱心に年金相談会を実施しています。金融機関としては質も大切ですが量(預金量)も大切な指標の一つですから。
金融機関の年金相談に応じた年金の知識を与える講座とは
こういった金融機関の年金ビジネスは、最終目的が「振込口座の獲得」イコール「預金の獲得」である限り、一つの特徴が出てきます。
それは、「手続きの重視」ということです。
手続きの代行をするのか否か(自行の職員が手続きをするか否か、外部(社労士)に頼むのか否か)を別として、「実際に年金を受け取るまでの具体的な手続きを踏んで、口座に年金が振り込まれる」という一連の作業が、預金獲得のためにとても重要になるのはお分かりになると思います。高いコストをかけて、相談だけで終わらせるならば年金相談会をやる意味はあまりないでしょう。
研修等では手続きに関する知識も必要となる
ですから金融機関の年金相談のビジネスモデルを実践するための研修では、ある程度の手続きに関する内容を入れないといけません。実際に年金を受給するためには、手続きということを避けて通れないわけですから当然です。
ところが、そういうような金融機関をターゲットとする勉強会に、保険セールスのために年金を勉強しようと考えている人が入ってしまうとどうでしょうか?
もちろん手続きもある程度知っておくととても強いアドバンテージにはなります。しかし、実際に保険セールスの方が、手続きを代行して年金に関係する書類を役所に持っていったり、あるいは手続きに関するアドバイスをしたりすることはまずありません。何より、そんなことをする時間もないはずです。保険セールスに関する限り、年金の知識は受給額等に関する一般的なものでいいということになります。
銀行等の金融機関と保険会社では、年金手続きに関するとらえ方におのずと違いがあるのではないかと思います。
自社の研修程度では教えてくれますが
もちろん、保険会社が自社で行う研修等では、その目的が保険セールスという点がしっかりしていますから、ポイントがずれることはないでしょう。しかし、保険会社の中でも年金を保険セールスに役立てたいと考える場合は、通り一遍の内容では不十分です。
ほかにも向上心のある方は、外部でもっと実践に使える勉強をしたい、もっと実践的に年金を武器として磨きたいと考えています。そこで、銀行等の金融機関が主催する年金教室に行ってみるものの、目的とは何か違い、ガッカリするのです。
金融機関向けの研修とは異なり、FP向けに年金を教えているところでは手続きの話はあまり出ません。しかし、その目的が保険セールスに絞られているわけではなく、どの業界にも使える一般論的な内容となりますから、結局あたりさわりのない話で、保険セールスの武器としてはあまり強いものにはなりません。
2009.05.11
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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