第66回 年金の観点からの会社の辞め時
時々相談を受けますが…
よく年金相談の際に、「会社の辞め時」を聞かれます。
定年まで、あるいは働ける可能性がある限りぎりぎりまで働く、ということが原則なのですが、もう疲れたから辞めたい、でも定年延長があるからどうしようかという場合、悩んでいる方もいらっしゃいます。
なかなか踏ん切りがつかない場合に、背中を押してくれるような何かを求めてご相談に来られるのでしょう。したがって私はこの場合には、4つの辞め時を提示しています。
辞め時 その1:妻が60歳になるとき
年齢差が2歳あるなら夫が62歳のときです。
サラリーマンの妻である第3号被保険者は、妻が60歳になるまでしか認められません。それ以後は、いかにサラリーマンの妻であっても、妻は保険料を支払ったことにはならないのです。1円の負担もなく妻が保険料を支払ったことにしてもらえる制度である第3号に保険者の制度と別れを告げるとき、そのときは1つの退職のポイントです。
辞め時 その2:夫が勤続40年となるとき
夫が大卒だとします。60歳時点で38年勤続。そして60歳を過ぎても継続雇用となったとします。
この場合、勤続40年までと、それ以降では「増える年金額が違う」のです。例えば給与が20万円だとすると、40年(62歳)までは、1年につき年金が3.3万円(年額)増えます。ところが勤続40年を過ぎると、1.3万円(年額)しか増えなくなります。難しく言うと、定額部分が限度いっぱいになる、ということなのですが、いずれにせよ勤続(厚生年金加入)が40年までとそれ以後では、同じ金額の保険料で増える年金額が異なるということになりますから、ひとつのポイントです。
付け加えると、ここは現役の社労士でもわからない人が多いくらい難しいところですので、よくわからない場合は、勤続が通算40年を超えると、(同じ保険料なのに)年金の増え方が緩くなる、と覚えておくと良いでしょう。
辞め時 その3:勤続20年になるとき
勤続20年になると、加給年金という優遇があります。
残念ながら加給年金の開始年齢が、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢が遅れるに従ってどんどん下がっているので、以前ほどのメリットはありません。しかし、例えば今60歳で勤続17年の夫が、あと3年(63歳まで)勤めると、権利が発生し、65歳から加給年金が約39万円出ます(妻が65歳までなので2年間だけですが)し、その後に振替加算もつきます。逆に、配偶者の厚生年金加入期間が20年を超えそうな場合は、夫が妻から、妻が夫からというようなもらい合いは、加給年金ではできませんから、20年になる直前に退職するという選択肢もあります。いずれにせよ20年に達する、あるいは20年に達する前というのはキーポイント(ただし超えるほうがいいのか、直前で辞めるほうがいいのかを、間違えないことが必要)です。
辞め時 その4:夫が勤続44年を超えるとき
これは、中卒、高卒で就職した人の話で、大卒の人は基本的に関係なく、なおかつ自営業の期間がない形で働き続けた場合ですから、該当者が限定されますがずいぶんと損得が発生します。
たとえば高校を卒業して60歳まで働いて42年、そこで辞めずにがんばって44年を超えた場合、その時点で辞めたとするとそこから3年は、定額部分が辞めた時点からもらえます。ですから、3年分で約240万円のお得。
あと数カ月で44年になるけれど辞めたという人もいらっしゃいましたが、まことにもったいない話です。高校を卒業してずっと会社で働いている場合には、辞め時を何度もチェックしてみる必要があります。
念を押しますが、やはり働けるなら働いたほうがいいです。年金より給与のほうが高いのが一般的ですし、給与が低ければ年金と重ねて支給されます。
でも、会社はいつまでいてもいいよというけれど、自分自身はそろそろ体もきついし辞めたいなと思う場合は、上記のようなポイントが背中を押すことになるのかもしれません。
2009.06.01
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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