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知ってビックリ!年金のはなし
第70回 無駄な手続きだからしないと思ったら
 
当時は無駄だといわれた
  前回(第69回)に関連する話です。ほぼ時を同じくして、こんな例がありました。
  ご夫婦で相談会に来られたお客さま(いずれも65歳を過ぎていらっしゃいます)で、奥さまは体の調子が悪いのか、ほとんどお話をされずご主人がずっとお話をされました。 現在は老齢年金を受給中です。
  奥さまは腎臓機能が悪く、人工透析をかなりの期間受けていらっしゃるとのこと。相談内容は、「障害年金をもらえないか?」ということでした。
  もう年齢的に無理かと即答してもいいかなと一瞬思ったのですが、もっと突っ込んで聞いてみました。そうすると裁定請求をする時点ですでに腎臓が悪く透析をしている状態だったのですが、当時の社会保険事務所の職員に、「障害の年金は手続きしてもいいけれど、手続きするだけ無駄ですよ」と言われたのだそうです。

  その当時の状況は詳しくはわかりませんが、この奥さまは若いころの会社勤務の期間が結構長く、老齢年金と障害年金の年金額を比較計算し、「障害年金をもらうより老齢年金をもらったほうが有利」と言われ、障害年金のほうはあきらめられたのだとか。  年金額を比較して低い額の障害年金をもらうことに意味がない場合には、積極的に手続きをさせない。それが以前の社会保険事務所の現場でよくある取り扱いだったようです。
受け取り方が変わった
  しかしその後、平成18年に老齢基礎年金と障害年金の受け取り方が変わりました。障害基礎年金と老齢厚生年金という組み合わせで年金がもらえるようになったのです。ですからこの奥さまの場合、そのとき障害年金の手続きをしていたならば、「老齢基礎年金プラス老齢厚生年金」から、「障害基礎年金プラス老齢厚生年金」に選択を変えることができるようになったのです。
  これによって年額20万円近くの増額ができるはずでした(この奥さまの場合は老齢基礎年金(国民年金)は加入していない期間があり満額ではないため、2級の障害基礎年金のほうが、年金額が多かったのです)。
  当時は正しい選択でも、仕組みや制度や運用は変わります。社会保険事務所の説明に従っただけに、ご本人たちには納得のいかないことでしょう。
今からでも受け取れる可能性はありますが…
  今からでも障害認定日にさかのぼって年金を請求することは理屈では可能です。大きく年月をさかのぼって障害認定日、つまり人工透析を始めた日をもって障害年金の権利を発生させるのです。症状が徐々に重くなった場合に傷害を認めてもらうという、いわゆる事後重症は65歳を過ぎていると手続きすることはできませんので、認定日からの年金請求のみが可能な道なのです。

  しかし、最大の問題は「添付書類」つまり「当時の診断書等」がきちんと取れるかどうかです。カルテの保存期間を過ぎている5年以上前の診断書をはじめとする当時の書類が絶対に必要となりますが、医師は書いてくれるのでしょうか。

  社会保険事務所の方が当時どのような対応をされたのか、正確にはわかりません。善意に解釈すれば、わざわざ無駄な手続き(しかも診断書作成というコストがかかる)をする必要もないわけで、相手のことを思った取り扱いをしたつもりだったのかもしれませんが、その辺りはわかりません。
  しかし、今回の場合は手続きをしないことが完全に裏目に出ています。当時は無駄だと思っても、手続きをしていれば年金額が増えてこの方はずいぶんと楽になったはずです。社会保険事務所の職員も当時の法律運用で説明しているのですから、責任はありませんし、私も当時相談を受けていたら「無駄だから手続きしなくてもいいですよ」と言ったかもしれません。

  しかし、このようなケースがあると、無駄だと思っても念のためやれるものはやっておいたほうがいいなあと思います。前回(第69回)のケースでも、やはり手続きはすべきなのですね。将来、何がどうなるかわかりませんので、やるべきことはやっておくことが大切なのです。
2009.08.03
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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