第71回 平成20年簡易生命表と年金(1)
平成20年簡易生命表をひもとく
さる7月16日、厚生労働省から「平成20年 簡易生命表」が発表されました。今回はこれを年金に絡めて見ていきたいと思います。
平均寿命はまた延びた
今回発表された簡易生命表によると、平均寿命は男性79.29歳、女性86.05歳です。昨年に比べて男性は0.10歳、女性は0.06歳延びています。
年金を考える場合に重要な寿命中位数(出生者のちょうど半数が生存している年齢=平均的な死亡年齢)は、男性82.21歳、女性88.83歳です。これについても、昨年(男性82.11、女性88.77)に比べて延びています。
| (補足)年金を考える場合、平均寿命より寿命中位数のほうがより現実を表していると思います。平均寿命に関しては、0歳で死亡した乳児がいる場合、160歳のお年寄りが(現実にはあり得ないが)いて平均寿命は80歳になる等、乳幼児死亡を考えたときの数字のぶれが大きすぎますから、平均寿命は基本的な指標であるものの、老後の生活のプランニングとしてはより現実に近い寿命中位数を使うほうがより好ましいのです。実際に平均余命を使う場合でも、年金の開始年齢(60歳や65歳)時点からの平均余命は、平均寿命の年齢より寿命中位数の年齢のほうが近いのです。
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老後の生活の中心は年金ですが
女性の場合、平均的に89歳弱まで生存します。本当に人生90年時代に突入目前。89歳という年齢は、女性が年金を貰える年齢(厚生年金(1年以上勤務)60歳、または国民年金の方(厚生年金が1年未満の方も)65歳)から計算して29年または24年後になります。
女性89歳までの年金を中心とした老後資金の予測、および不足な場合にはその手当をしておかないといけないわけで、これを怠っていると、本人のみならず本当に家族をはじめとする介護者(介護の担い手、多くは子どもです)はお金が足りず困ってしまいます。介護にお金は絶対必要ですから。
しかも89歳はあくまでも「平均」なのであって、当たり前なら平均を超えることは普通に考えます。用心深い人なら95歳くらいまでの老後資金の予測および準備を考えるでしょう。
甘すぎる認識
年金相談をしていると、本当にこの長生きに対する認識が甘いことが気になります。
まず、平均的にこんなに長生きしているという現実がわかっていない人がいます。平均寿命はどれくらいですか? 人間どのくらい生きますか? という問いかけに「75歳くらいかな?」などと答えたりする。
次に、こんなに長生きだと思っても、それを意に介さず重く考えない人がいます。「確かに全体平均はそうかもしれないけれど、私はそんなに生きない」。
何の根拠と何の自信があっておっしゃるのかわかりませんが、思いとは異なり(幸運なことに?)そんなに長く生きてしまう確率が高いのです。大抵の場合は社交辞令ですから、「いえいえ、数字は正直ですから、長く生きる確率が高いですよ」というと納得される方が大半ですが、それでも「やっぱり早死にすると損だから減額されても早く年金を貰いたい(繰上げ支給)」とおっしゃいます。
繰上げ支給を検討する場合は、反対に振れる(長生きした)場合を十分シミュレーションしてください。老後生活をまかなっていけるだけの財産が他にあるならば、年金を早く貰う(繰り上げる)ことは立場的にお勧めはしませんが、行われてもかまわないでしょう。そういう老後資金の目算が立つかどうかが問題です。
また、「私が高齢者になったときは食生活等の理由により明治・大正・昭和ヒトけたの人のように頑丈でないから長生きしない」という方もいらっしゃいますが、生命表を見る限り、今後20年程度では、超強力な疫病の流行や戦争でもない限り、平均寿命や寿命中位数が5年も6年も短縮することはなさそうです。
(第72回に続きます)
2009.09.07
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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