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知ってビックリ!年金のはなし
第72回 平成20年簡易生命表と年金(2)
 
繰上げ支給が不利であることのおさらい
  さて、前回(第71回)触れたように、日本人の平均寿命の延びは続いていますが、今でも多くの方が国民年金の繰上げ支給(65歳から貰える年金を60歳に前倒しして受給する)をされていたり、また検討されています。
  60歳から減額受給するのと、通常の65歳から貰うのとでは、受取累計額が76歳8カ月までと76歳9カ月で逆転するのはよく知られていることです。
  前回(第71回)を見た時点で、76歳8カ月なんて、絶対繰上げが不利だろうという予測はつきますが、あらためて最新の簡易生命表を元に具体的数字で確認してみましょう。出生者100,000人につき
 60歳時点での生存者数(男 90,997 女 95,326)
 65歳時点での生存者数(男 86,556 女 93,407)
 77歳時点での生存者数(男 66,288 女 83,319)
  60歳時点での生存者がその後、77歳を迎える確率を計算すると、男:72.8%、女:87.4%。この確率はすなわち、65歳から貰う年金を60歳に前倒しした場合、年金受取額合計の比較で損になる確率です。少し前までは、女性は86%の確率で60歳からの繰上げは不利だ、というように年金セミナー等で説明をしていましたが、平成20年の数値を見るとまた不利になる確率が高まりました。私の原稿も書き換えないといけません。そして本当に「繰上げ支給」というのはきわめて慎重にやらないといけないものだということもわかります。50%-50%のような確率論ではないのです。「早くもらえるからいいわ」程度の安易な決断では絶対にダメです。一般の人なら知識がないのでそのようなこともありますが、FPが「繰上げの有利不利をきちんと説明できない」のは問題です。
老後の生活設計に占める年金
  年金相談をしていると多くの人が、「もう寿命の延びは頭打ちになるのではないか」とおっしゃいますが、実際にはそれとは逆に延び続けています。そんな長寿社会ですが、より良い老後を迎えるためには、当然ですが健康とお金が必要です。
  健康についてはFPの専門分野ではありませんが、老後の生活資金の準備というのはFPの得意とするところです。
  よく「年金不安」と叫ばれていますが、公的年金制度がなくなることも仕組みが崩壊することもないでしょう。しかしこのように生命表を見る限りにおいては、今後劇的に年金額が多くなることはとても考えられません。そんなことをしたら財政的にすぐに行き詰まってしまいます。なにしろ国民年金は昭和36(1961)年から開始されましたが、そのころ(昭和35年)の寿命中位数は男性70.66歳、女性75.44歳であり、そこから平成20年には男性は11.55年、女性は13.39年も延びているのです。
  そして、年金額をチェックして老後生活資金が不足気味である場合、どのように対策をするべきかという指針の作成が今にも増して必要になります。まさにFPがアドバイスをするに適した領域です。
数字は説得力がある
  年金の繰上げ・繰下げは、最終的には人の寿命が絡みますから100%正解ということありません。先に87%の確率が…、というお話をしましたが、逆に見れば13%の人は77歳を迎えず亡くなられた方で、繰上げ支給を選択してよかったなということになっているのです。
  年金の受給の選択は、結果的にどうなるかはわかりません。しかし、どちらの目が出るか? という確率はお客さまにきちんと知らせるべきです。あるいはFPは一般的常識として知っておくべきです。そうしないとお客さまが間違った選択をしてしまうことになります。そういう意味では個人の意見ではないけれど、統計資料の数字はとても説得力があると考えられます。
2009.09.07
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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