第78回 高齢者の心理と年金からの保険料天引き(2)
住民税の年金からの天引きが始まる
前回の続きです。
「住民税の年金からの天引き」が本年10月年金支給分から始まりました。たぶん後期高齢者医療制度のときと同じように、「クレームが市区町村役場などにたくさんくるんだろうなあ」と思っていたら、案の定です。
「地方税法の改正により、65歳以上で公的年金を支給され課税対象の人の年金から、市・県民税など住民税の引き落としが始まっている。年金が振り込まれた15日には、県内の市町村には高齢者からの問い合わせや苦情が寄せられた。(略)
今年6月に対象者あて納税通知書を配布した同市には配布直後、「受け取る年金が少なくなり、年寄りいじめだ」など苦情が相次いで寄せられた」。(沖縄タイムス)
いじめと感じる本質は
「年寄りいじめ」、この言葉は胸にぐさりと突き刺さります。しかしこの天引き制度、なぜ高齢者にこんなに評判の悪いものなのでしょうか。年金の天引きに反対する政治家の論はいくつか読んでみましたが、私の理解力不足のためかよくわかりませんでした。そこで、お年寄りがこの制度に反対される理由を仕事の経験から考えてみます。
私が普段高齢者の金銭管理の話をしていて思うには、どうも高齢者はお金に対しては深く考えず、資産全体ではなく「目の前の、入ってくるお金」で判断してしまう傾向にあるようなのです。そして同時に「減る、減らす」という言葉に極めて敏感になっています。
金融資産が3億円あり、年金が月額15万円しかない一家と、金融資産が2,000万円しかないが、年金が25万円ある一家、もちろん資産管理の考え方というのは各個人で異なりますので一般化することはできないのですが、どういう老後を過ごすでしょうか?
15万円の年金ではちょっと少ない。でも3億円あるなら、月10万円ずつ(年間120万円)取り崩していけばいい。20年取り崩したとしても2,400万円。いやもっと多く月20万円ずつ取り崩したとしても、20年で4,800万円の取り崩しだから、他に家の修理等いろいろお金がかかっても資産は十分残るから問題ない。
普通はそう思いますが、お年寄りは恐怖感が先立つのか、なかなかそれをしない傾向にあるようです。気がつけば蓄えはたくさんあるのに、暮らしぶりは15万円の年金をベースにした極めてつつましいものにどんどんと近づいていく。
一方、2,000万円しか金融資産がない家計でも、年金が月25万円あれば、それを全部使ったとしても、翌々月にはまた25万円×2(2か月分)が振り込まれてきます。年金を使い切ることには、あまり躊躇がありません。そうするとこの人の生活ベースは月25万円を基本にしたものになります。
9=10−1ではないのか
残念ながらこの問題は統計化できませんので、私個人の感想でしかなく、違うといわれれば反論はできません。しかし、年金の天引きを高齢者が強固に反対する理由がぼんやり見えてきます。
年金からの保険料や税金からの天引きをせず、いったん10万円貰って1万円を支払う方が、最初から税金等を天引きされて9万円を貰うより精神的に良い。つまり目の前に10万円がある(あるいは預貯金の通帳の残高に10万円という金額がある)ということ自体に意味があるのではないかと。実際の手取額が減ると負担増になったわけでもないのに、不安が襲ってきて「どうやって生活するんだ、年寄りいじめではないか?」という話になるわけです。
いろいろと考えを巡らせると、高齢者に対して「老後の生活資金をどのように管理するか」という点をもっと深く考えていく必要があるような気がします。
保険会社が年金型商品を販売する場合、預貯金と違い、取り崩しという高齢者の不安を減らして「心理的に生活を豊かにする機能」があるわけで、それを今後理解してもらうことが必要ではないでしょうか。
2009.12.14
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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