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知ってビックリ!年金のはなし
第79回 攻略本は良いことか悪いことか
 
新聞によると攻略本が売られているそうです
  「うつ病患者を対象に障害年金2級を受給することを目指したマニュアルが、複数のウェブサイトで販売されている。2級に認定されやすくなるような診断書を主治医に書いてもらうための方法が記されているが、不正請求を誘発する恐れもあり、関係者からは「攻略本のようで好ましくない」と問題視する声が上がっている」。
  こんな記事が最近の新聞に掲載されました。うーん、これは非常に難しい問題です。
「こういうふうに書いてください」というお願いは普通にすること
  知り合いの医師に聞いたことがありますが、とある患者から「生活保護を受けるためにあることないこと何でもいいから重く診断書を書いてくれ」という要求を受けたそうです。もちろん断ったそうですが、そういう要求は意外と多いのだとか。
  どんな場合でも、うそは問題外です。これについては全く議論の余地はありません。
  しかし、新聞記事で紹介された「攻略本」(実際に読んだことはないのでわかりませんが)の中には「うそは書けませんが、多少オーバーに書いて」といったアドバイスがあるそうです。そうなると、うそを勧めているわけではない以上、攻略本ということに多少違和感があっても、このような本を全面的に否定すべきか否か、非常に判断が難しくなると思います。
  われわれの勉強会でも、一般論としてですが、障害年金の診断書を書いてもらうときに「ここはこうした方がいい」「ここはこう書いてもらった方が認定してもらえる確率が高くなる」ということを教えてもらうこともあります。それらを「患者さんのためですから」と実際に医師に伝えて診断書をお願いする、これがみな悪いことなのかどうか。うそのない範囲での多少の誇張というのは、このような請求書類を作成する場合には普通にあり得ることです。同じ病状でもさらりと1行で書いてあるのと、ていねいに5行書かれているのとでは、読んだ人の印象が違うでしょう。
  このあたりは、民間の生命保険で給付金を請求する場合にも似たようなことに遭遇することがあり、取り扱いをされた方は納得いただけるのではないでしょうか。
精神障害者への年金請求の難しさ
  一般に障害年金、特に精神障害者への障害年金の請求はその中でも格段に難しいといわれています。実は恥ずかしいことに私も、病気等での障害年金の請求はしていますが、精神障害の障害年金は経験がありません。頼まれて断るつもりはありませんが、なかなか事例に出くわさないのです。したがってその本当の難しさはわかりません。
  しかし、精神状態というのはまさに日替わりで、今日は普通だったのに明日は極端に悪化しているとか、また内臓系の疾患などのように客観的に検査数値(血糖値など)で判断できるものでもなく、どうしても病状把握および診断に医師の主観が入る、さらには患者への聞き取りに(精神障害ゆえ)難渋する等、難しい作業であることは容易に想像がつきます。
われわれが少し反省すべきこと
  このような本の評価について、最後は違法脱法の指南の有無、あるいは程度の問題となってしまうのでしょうけれど、専門家でも障害年金、特に精神障害というのはあまり出くわすことがないということはすなわち、通常病気になった方があちこちで年金相談してもさっぱり要領を得ないということが普通であるということを意味します。そして、そういった場合の請求の手助け資料となるというのであり、かつその内容がより年金受給をしやすくするために的確なものであるならば(違法脱法行為を勧めていないという前提として)本当にすごいことだと思います。逆に著者がどこからそういう情報を手に入れたのか聞いてみたいくらいです。2、3件手続きをした程度では絶対にわかりません。
  いわば、「世の中に頼る人が少ないけれど本当に困っている人がいる」からこそ、広まったものということもできるわけで、こういう本が出るということは、あまり障害年金にかかわらない傾向にあるわれわれも反省すべき点があるのではないのかと思ったりします。
2010.01.18
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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