第80回 海外在住という意味
南の島に思わず居ついてしまった
とある旅行者が南の島に旅に出て、最初はすぐ帰るつもりだったのだけれどそこが気に入って、あまりにも快適でついつい1年過ごしてしまった。
さてこの場合、年金についてはどうなるのでしょうか?
はじめから長期滞在をするつもりで住民票を抜いて南の島に住んでいたなら問題がなかったのですが、最初はそんなに長くいるつもりはなく、住民票を抜かないで旅に出ていた場合を考えてみてください。
結論はカラ期間
結論を先に書きます。
この場合の滞在期間もカラ期間になります。住民票が日本に残っていたか否か(出国前に住民票を抜いたか否か)だけで年金の必要加入期間計算時における海外在住の期間(カラ期間)が決定されるものではありません。もちろん日本に住民票が残ったままであればシステム上、国民年金の保険料の納付書は残された住所に送付されますし、それを支払わなければ形式上は未納滞納ということで取り扱われることになるでしょう。
しかし実態に照らせば、海外に出かけていたわけですからその取扱い(未納滞納)のほうが間違いであったということになります。
この場合は、その期間海外に出かけていたということ(国内にいなかったということ)を証明する旅券(その出国と入国(帰国)の証明印のあるもの)を添付して、海外在住を証明します。そうすると、その期間は「カラ期間」という取り扱いになり、未納滞納の取り扱いは覆るのです。
この実例は、とある優秀な社労士が取り扱われたケースです。短期留学で海外に出ることを繰り返したために、年金をもらうのに必要な期間が足りなくなった相談者について、その短期留学期間をかき集めて年金の受給に必要な25年(納付+免除+合算対象期間)をクリアさせて、年金受給に結び付けたという実例を見せていただいたのです。
「なるほど、こういう方法で年金に結び付けるんだなあ」と感心しました。
あちこちにあるミスリード
ところが、こういうケースについて某新聞の年金相談に「“住民票を抜かないで海外に出た場合”は未納期間となり年金が貰えなくなりますから注意してください」といったQ&Aが掲載されたことがあります。私も読んでいてちょっと驚きました。明らかに、今まで述べたような事例があることから間違いなのですが、実はときどきネットや書籍でもこういうことが書かれている場合があります。住民票上の住所が日本にあるかないかだけでカラ期間を判断するのではなく、きちんと実態で判断するということがポイント、そしてパスポートの出入国印はこの場合に公的な証明となるわけです。
ただ、失効したパスポートを手元に残さずに捨ててしまったりすると、残念ながら住民票を抜かないで海外に出た場合にはその証明が全くできず、実態として海外に出ていたとしてもカラ期間とはならないでしょう。やはり最初から長期で旅にでることがわかっているなら、住民票を抜くほうが海外在住ではいいことになります。
海外に出るときでも任意加入を
海外在住といえば、住民票を抜いて海外に留学するような場合(仕事で会社から海外に派遣される場合は扱いが異なります)、やはり任意加入をしておいた方が無難だと思います。カラ期間は当然ながら、年金額には結び付きませんから、「20年国民年金を納付、20年海外にいて任意加入をしない」ケースであれば、年金(国民年金)は貰えますが、その金額は月額3.3万円ほどにしかなりません。
ただでさえ国民年金の額は少ない(40年間納付で月額約6.6万円)ですから、貰える、貰えないも大切ですが、貰える場合の額も大切です。
日本に帰国しなくても、老後に物価のとても安い南の島に移住するのであれば、月6万円程度の年金でも生活していくことは十分可能ですが、3万円程度であれば住む国、場所選びがちょっと厳しくなるかもしれませんね。
2010.01.18
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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