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知ってビックリ!年金のはなし
第81回 国民年金の追納期間が10年に?
 
未納者の救済のために
  「国民年金の保険料をそういえばしばらく払っていないなあ。気が付いたらもう5年も払っていなかった。これはまずい…」
  Aさんは思わずため息をついてしまいまいた。「これはまずい、年金が少ないと老後の生活設計は心配だし、第一、公的年金は国民同士の助け合いの義務でもあるのに自分はそれを無視してきた。ここで気持ちを入れ替えて保険料を今後はきちんと払うことに決めた」とします。
  そこで、「今まで支払わなかった5年分の保険料もまとめて支払ってしまおう」、そう心に決めたAさんは勇躍、ねんきん事務所に相談に出かけました。さてこの場合、さかのぼって全5年分を支払うことができるのでしょうか?
  多くの方がご存じだと思いますが、答えは“No”です。今の決まりでは2年分しかさかのぼって納めることができない、それ以前の部分は時効の壁に阻まれて納付することができません。そうすると、残りの3年については「未納が確定」します。あとは、60歳を過ぎた時点で未納部分について任意加入をして将来的に保険料を支払うくらいしか、その穴を埋めることができません。
未納期間の追納に関する方向性の変化
  (本稿を書いた時点でまだ決定ではないのですが)マスコミ報道によると、
  「厚生労働相は1月12日の閣議後会見で、国民年金の保険料の未納分を過去にさかのぼって納付できる期間を、現行の2年から10年に延長する方針を明らかにした」。
  ということで、政府はこの追納の期間を10年に延長する方向に向かっているようです。
  これは未納者をなくし、年金の受給者を増やす方策として大変良いこと、のように思えますし、基本的にはそうです。が、どこから見ても問題のなさそうなこんな方策でさえ、少し微妙な問題をはらむと思います。
一律救済の難しさ
  例えば、20歳から35歳までの15年間は納付していたけれど、その後全く納付をしていなかった55歳の人は、今からさかのぼること10年、追納をすることにより、25年の年金を受けるのに必要な加入期間を満たします。よって、もし今回の報道のように制度が改正されるならば救済されます。一瞬にして納付期間を満たします。これで老後も少しは安心になるでしょうか。
  しかし、ずっと未納が続いていて、45歳までに納付期間が5年しかなかった方はどうでしょう。70歳までにあと20年保険料を納付すれば、加入期間は25年になる。「今からでも遅くないから納めなさい」と周囲に言われ保険料を納め始めた。現在55歳であるとすると、45歳までの5年と、45歳から55歳までの10年で合計納付期間は15年です。
  でも、直近の10年間には未納期間がありません。そうすると、10年分まとめてドンと追納するができないので、これからもコツコツと65歳まで(あと10年)、保険料を納め続けなければなりません。もちろん今後納付をすれば年金はもらえますが、もしまとめて10年分納めることができるなら、精神的にすごく楽になると思いますがそれもできません。
わずかに駒を動かすだけでも微妙な損得が起きてしまうのが年金
  学生の納付特例や若年者の納付猶予といった制度では、10年以内の追納を認めています。でもこの場合は制度の開始時点から最初に「10年以内に納めてくださいね」という案内をしてから特例や猶予を行っているので、周知という問題はクリアしており不公平感はありません。
  しかし今回の追納は「未納という状態が起きた後に」後付けで仕組みを改訂するものです。今まで追納の年数が2年だったのもを10年にすれば、前述のとおり、「ラッキー」という人と「全くかすりもしない、運の悪い人」がでてくる。さらに、ラッキーな人でも、そのとき手元にお金がなかったらどうするのか(経済的理由による保険料免除は事前の申し出が必要です、事後ではダメです)。お金がない人は指を加えて未納のままで、お金のある人だけが追納で年金を受ける権利を獲得することでいいでしょうか。
  ほんのちょっとだけ制度を動かすだけでも、思わぬ所に不公平感が出てきます。
  年金の難しさは、多様な年代の人が同じ制度に加入していることで、生年月日・性別その他もろもろの条件(今回は未納であった時期)によって利害に微妙に食い違いができてしまうことです。かじ取りの非常に難しい制度だということができるでしょう。
  なお、今回指摘した不公平の危惧に対する対応が後の改正案でされているかもしれませんが、そこまで現時点ではわかりません。この点はご了解ください。
2010.02.08
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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