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知ってビックリ!年金のはなし
第82回 支給開始年齢の繰り下げで光が当たる年金
 
妻が先立ってしまったら年金は?
  厚生年金期間のある妻が先だった場合に、夫がその妻の死亡を原因とする遺族厚生年金を受給できる、というのは以前から制度としてありました。
  ところが実際問題として、夫の要件(妻が死亡時に55歳以上であること)および支給開始の年齢(夫が60歳から支給)が厳しいという点で、該当者が少ないため、軽く扱われていました。
  例えば、夫が58歳のとき、3歳下の妻が死亡したとします。妻には会社務めの期間が20年あり、死亡前の妻の老後の厚生年金試算額(まだ支給開始される年齢でないのであくまでも見込み)が、年額(月額ではありません)で30万円だったような場合です。その場合は形式的には夫にその75%の22.5万円の遺族年金が出ます。しかし、夫がずっと自営業であったような場合を除いて(会社員、公務員等勤め人であった場合)、夫自身が60歳からもらえる老齢厚生年金のほうが、その年額22.5万円より多い場合が一般的です。その場合、老齢厚生年金を選択してもらうことになり、遺族厚生年金の支給額はゼロ。つまりあまり手続きする意味がないと思わるケースが一般的だったのです。
老齢厚生年金の支給開始年齢はどんどん繰り下がっていっていますので
  さて老齢厚生年金について、定額部分と報酬比例部分の支給開始がどんどんと後へずれていっていることは年金を勉強されている方なら十分ご存じかと思います。
  現在厚生年金をもらっている方は、60歳支給開始が原則です。定額部分と報酬比例部分を同時に60歳から受給という古き良き時代もありましたが、今60歳になられる方については報酬比例部分のみが60歳からです。いずれにせよ老齢厚生年金は少なくとも60歳からもらえた時代が延々と今まで続いてきました。
  ところが昭和28年4月2日生まれの方から変わります。昭和28年4月2日から昭和30年4月1日生まれ、この方々については61歳から報酬比例部分が発生します。つまり60歳の1年間は、(特別支給の)老齢厚生年金は一切出ないのです。そして以下生年月日が後になるにつれどんどんと支給開始年齢は繰り下がっていきます。
  そうするとどうなりますか?
選択する必要があるかないか
  今までは、60歳から「老後の年金」も「遺族の年金」も発生していましたから、どちらかをもらう選択をしていたのですが、それが変わってきます。
  昭和28年4月2日から昭和30年4月1日生まれの方は60歳から1年間は、遺族厚生年金の権利は発生するが、老齢厚生年金の権利は発生しません。そうなると、夫が60歳になってから1年間は、亡くなった妻が会社員・公務員等で勤めていた期間がある場合は、仮に年間1万円しか支給されないわずかな年金だったとしても、遺族厚生年金をもらうように準備しておかなければいけない、ということになるのです。
  男性の老齢厚生年金の支給開始年齢はさらに繰り下がっていきますから、例えば昭和36年4月生まれの男性であれば、支給開始年齢は65歳であり、妻が死亡時に夫の年齢が58歳であったとすると、60歳から64歳までの5年間、遺族厚生年金をもらうことになります。
年金は生き物のように変わっていく
  実はまだ今回の話に関する実例を見たことはありません。女性が特に長生きである昨今、妻が先立つパターンは多いとはいえないでしょうから「該当ケースがあまりなく総数が少ない」と想像されるのです。
  しかし、もらい忘れ(手続き漏れ)というのは、このような通常はあまりないケースに(現場の人が気付かず)発生するものですから、年金を深く学びたい人は記憶にとどめておかれるとよいでしょう。
  今回のケースは、もらい忘れに注意をしてくださいという意図もあります。がそれより、年金法の改正は行われていなくても、法律により以前から決められて予定されていた、支給開始年齢がだんだん繰り下がることによって年金の仕組みに思わぬ影響が出ることがある、年金って複雑だなあと思っていただきたい、という意図でも紹介させていただきました。
2010.02.08
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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