第85回 あらためて加給年金の要件を考える
加給年金のおさらい
老後の厚生年金に上乗せされる加給年金はご存じの通り、会社(公務員)に20年以上勤務していた年金の受給者に配偶者がいる場合に支給されます。これを受給するためにはいろいろと要件がありますが、その中に「配偶者の年収要件」というものがあります。原則として年収が850万円未満(給与所得者でいえば6,655,000円未満)でないと加給年金は受け取れません。
しかしこの850万円というのがなかなかくせ者だった。これが今回の話です。
大抵の場合は、奥さんに「年収は850万円以下ですか?」と聞くと「とんでもない」という顔をされます。場合によっては「この人は何を言っているんだ?」、そういう顔をされます。
ところがまれにこれを超えている人がいます。ちょっと前の相談での話です。
えっ! 不動産収入ですか?
私が、「昨年の年収はいくらくらいでしたか? 850万円以上ありましたか?」と形式的に聞きました。奥さんは厚生年金にあまり加入されておらず、しかも現在無職ということでしたので、本当に軽い気持ちで聞いたのです。
ところが、奥さんは口ごもっていらっしゃる。
話を聞くと、不動産をかなりお持ちで、そこからの収入が結構あるとのこと。
「一体、いくらくらいですか?」とさらに突っ込んで聞くと、なんと加給年金がつくのにきわどいラインの様子。そうなると非常に微妙な話になってくるので、「今年(または去年)の確定申告書でも見ないとなんとも言えません。場合によっては加給年金がつかないかもしれません」と慎重に言葉を選んでご説明をしました。
いや、本当に不意をつかれました。
給与収入の場合はある程度予測はつきます(現在どんな会社勤務なのか、管理職なのか否か等を聞きますし、あるいは夫が会社の社長で妻が重役という場合も、業績の良い会社は重役である妻に高額の報酬を出すこともありますから注意します)。
しかし不動産収入については正直わかりません。都会の近郊で先祖代々農業等をされていて土地が潤沢にあるお宅では、思いのほか多額の不動産収入があってもおかしくありません。
思い込みは良くない
年金に限らず思い込みで説明をするのは本当に良くないなあとつくづくと思いました。女性で年収が850万円を超える方は、決して多いとはいえないでしょう。また850万円を超える収入を得ている共働き世帯の場合は、専業主婦のように65歳になったときに加給年金がなくなるのではなく、夫婦双方が60歳になった時点で加給年金がなくなります(例:夫婦の年齢差が6年あった場合、夫が65歳の時点から妻が60歳になるまでの1年だけ、加給年金が出ます。年齢差が3年であった場合は、夫が65歳になった時点で妻が62歳ですから加給年金は一切出ません)。よって、よほど夫婦に年齢差がある場合以外は加給年金の説明に重きを置きません。このように、共働きではないが妻の収入が高いという例はあまりないので、思い込みで間違えてしまうのです。
しかし、なにか納得できない面も
この850万円というのは年金制度的に加給年金を出す基準としては非常に高額であり批判が多いところです。70万円×12月=840万円。月額70万円あっても加給年金の支給の範囲内なのですから、こんなに稼ぎのある人に対しても家族手当のような性質を持つ加給年金が支給されるが、これで良いのか? と批判されるのは、もっともです。
一方で多く見受けられる例として、妻が20年ちょっとだけ厚生年金に加入していた場合に加給年金がつかないケースがあります。20年ちょっと会社で働いたが、一般事務で給与は安く平均20万円の給与で働いていた。そうすると、60歳からの厚生年金は年間36万円程度でしかありません(昭和22年4月生まれの女性の場合、63歳からは定額部分が出ますので76万円ほどになりますが)。
夫が同じようなサラリーマンだったとして、片や、不動産収入が年間840万円あるが、それに加えて夫の年金には(65歳からですが)加給年金が年39.4万円つく。
一方、妻が20年会社で働いていた場合は、妻が無職で年金を36万円もらったとしても、夫の加給年金39.6万円はつかない。
不動産収入のある方には罪も何もないですし、得てして境界線付近ではこういう矛盾が起こることはあるのですが、久しぶりに実例に遭遇し、なにかしっくりとこない気持ちが残ってしまいました。
2010.04.12
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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