第90回 年金に頼るいろいろな人々
ん? 親の年金が頼り?
自宅庭に母親(81歳)の遺体を埋めたとして、奈良県で50歳の男性が逮捕されたそうです。母親の遺体を埋めた理由が、「母親が死亡して年金が貰えなくなるので見つからないように」というものでした。
保険金目当て、遺産相続がらみの事件は耳にしますが、年金目当てのこのような事件もときどき起こりますね。
母親がいくら年金を貰っていたのか知りませんが、困ったものです。将来必ずばれますし、ばれたら結局その分を返還しなければならないのですが、そこまで考えなかったのでしょうか。
親の年金にすがって生きる
最近は不況の影響もあり、仕事がなくなり家でぶらぶらして親の年金にかじりついている人が結構いるという話を聞きます。そのような人たちの実態がどうであるかは知りませんが、親が長年会社に勤めていて定年退職したレベルの年金があれば、つつましく生活していくなら子ども1人や2人くらいの最低限の面倒をみる程度のことは何とかできるでしょう。
小さな子どもの親が亡くなった場合に支給される遺族年金ならともかく、年金は成人した子どもの面倒をみるためのものではないはずですが、現実にはそうなってしまっているケースも多いようです。
子どもの年金に頼る親
以前、勉強会でお話をお聞きした、体の不自由な子どもが通う施設の施設長さんよると、子どもが20歳になると障害年金が出るので、それを目当てに、「自分のところで引き取って面倒をみるから」と申し出る親が結構いらっしゃるのだそうです。
施設側は、このまま施設にいて職業教育を受けたり集団生活をするほうが本人のためにいいと思っても、親の申出であれば断れず、親に子どもさんを手渡すそうです。
それから後のことは施設では全くわかりませんが、本当に2級の国民年金(月額6.6万円)、1級の国民年金(月額8.25万円)、全てが子どものために使われているのでしょうか。まさか子どものための年金を親が生活費に使っているなんて、そんなことはないと信じたいのですが。これも年金制度が本来想定したものではないでしょう。
遺産相続がちらついて
昭和61年までの旧法の時代の年金は、現在60歳を迎える方よりもずいぶんと支給水準は高めでした。今は皆無ですが、月額20万円台半ばくらいの年金を貰っている方もいらっしゃいました。そんな公的年金ですが、あまり額を多くするといろいろな問題が出てきます。
例えば老後に施設Aに入所し経費が月額15万円必要となる。でも年金額は月額25万円ある。その差は10万円。そうすると、この年金受給者は何もしないのに年間120万円の預貯金が毎年増えることになります。5年間入所していると、600万円が自動的に貯まっていく。
そこに子どもが登場、話に聞くと近所のBという施設ならば、費用が毎月2万円くらい安く済むらしい。どうせ寝たきりなのだから、となるとこっそりBの施設に移したりする。その差は2万円×12で年間24万円。施設Aよりもっとお金が貯まる。
大切な親のことですから、そんな金銭のみの話で施設選びをする人は非常にわずかでしょうが、人間魔がさしてしまうと、そういうことを考えるようになったりします。親の年金なのに子どもがごっそりと取っていってしまう。しかも親は介護を受ける状態だから何もできない。
年金というのは、「老後」「障害」「遺族」という3つの種類があるのはご存じのことと思います。
そのいずれもがいわば世の中で、どちらかというと保護されるべき年齢あるいは環境の人に支給されるものです。だから年金額は、元気でしっかり働いて得られるであろう賃金より少ない、しかし確実に支給されるもの。
ところが、何もしないでも2カ月に1回、確実に一定の安定した額が口座に振り込まれるという非常に優れた仕組みのために、それをあてにしてしまう周囲の人が出てくる。こういう事例は今後もなくなりませんし対応ができませんが、困ったものです。
2010.06.14
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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