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知ってビックリ!年金のはなし
第92回 年金保険料を払ったのに年金が貰えない?
 
どうして私の払った保険料は年金に結びつかない?
  「どうもわからない、なんで年金に結びつかないのか?」
  そんな悩みを持って、もうすぐ60歳になろうとする女性が相談会を訪れました。聞けば「昭和50年代に1年間、国民年金を納めたのに、それが年金に反映されていない。ほらこの通り、領収書も手元にあるのになぜなのでしょう? 年金事務所に聞きに行って説明を受けてもさっぱりわからない」ということでした。
昭和61年3月までのサラリーマンの妻の任意加入
  保険料の領収書があるのに、その期間が年金に結びつかない。普通には考えられないことです。
  その場で即答できなかったのでいったん持ち帰りにして確認しました。そして結論はすぐに出ました。
  この方は昭和50年7月に結婚されていたのです。昭和61年3月までの法律では、「独身で会社に勤めていない人」は国民年金に強制加入。しかし結婚すると保険料の納付義務はなくなりました。結婚後も加入するなら「任意加入」をしなさいということだったのです。

  その当時の結婚後の任意加入と強制加入の関係は、現在の60歳からの任意加入を当てはめて考えるとわかりやすいです。
  現在国民年金は60歳までは強制、有無も言わせず加入です。裏を返すと強制の期間は60歳で終了し、それ以後は納付義務がなくなります。
  ところで、60歳時点で加入期間が40年に達していない人は、それ以後も国民年金に加入することができます。これを任意加入といいます。現在はすべて記録等をコンピューターで管理しているので絶対にないことですが、もし60歳前から納付していた保険料を誤ってそのまま60歳以降も継続して払い続けていたらどうなるでしょうか?
  この場合、60歳を過ぎて納めた保険料分は、間違って納付されたものですから返還(還付)されます。そして年金は60歳までの納付期間で計算されます。60歳を過ぎて保険料を納付するためには、「改めて任意加入手続をすること」が必須なのです。

  昭和61年3月までに結婚された方は、年金上の立場が結婚前の強制から結婚後の任意に変わった。つまり仮のケースとして60歳に達する前後の任意加入と強制加入でこれまで説明したことと全く同じことが実際に起こったのでした。
  その当時はたぶん納付の機械処理等が厳密に行われていなかったことなどにより、間違ったままずるずると納付を受け付けたのでしょう。

  その後、そのことに気が付いた社会保険事務所が「保険料を返還し、納付がなかったこと」に記録訂正したのでした。その返還の記録(還付記録)は年金事務所にありましたが、なにせ30年も前の話、お客さまはお金を返してもらったことなどお忘れになられたのだと思います。
昔からやっぱりわからないのが年金なのか
  昔のことなので、返還してもらった、もらわない、ということを言い争っても年金機構のコンピューターに還付の記録がある以上、これは覆らないでしょう。
  しかしこの方、本当にまじめな方なのです。
  結婚したことをちゃんと届出られていた。しかもその後(結婚後)も納付義務はないのにまじめに保険料を(納付できないとは知らずに)納付されていた。このようにまじめに生きてこられた方が、後で年金に結びつかない不利を受けるというのは、一時金として保険料を返してもらったにせよ、ちょっとやりきれない面があります。結婚しても保険料を納めるためには「任意加入する」という説明が、当時の市町村の国民年金課できちんとなされていたり、あるいは年金に詳しい人がそばにいて的確なアドバイスをされていたりすれば、こんな残念なことにはならなかったわけです。今よりずっと年金に対して国民の関心も薄く、お役所も高圧的であったかもしれない時代、それを期待するのは無理だったのでしょうか。

  「一般の人にとって年金の仕組みは極めてわかりにくい」、そんな声を聞きますが、この事例を見ると「確かに昔からそうなのかな」と思って深いため息が出てきました。
2010.07.12
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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