第94回 悩ましい日本在住外国人の年金加入(2)
外国人の国民年金納付状況は思わしくない
前回(第93回)は、外国人と厚生年金の話をしました。今回は外国人と国民年金の話です。
先日の勉強会で、外国人在住者の多い地域において外国人の方の年金相談を数多くされている方のお話をお聞きしました。
その中で、「外国人の相談を受けていると、国民年金の保険料を納付している方がほとんどいない」ということを指摘されていて、ものすごく気になりました。統計的数字としての国民年金にかかる外国人の納付率というのを私は見たことがありませんが、実際に現場で仕事をされている方の感想ですから、そうは外れてはいないような気がします。
国民年金は構造的に未納滞納になりやすい
前回は、従業員を厚生年金に加入させていない会社の話をしたのですが、厚生年金というのは、保険料の徴収が「給与天引き」であり、経営者としても「保険料の折半負担は会社を運営していくための必要な経費として仕方がない」と認識されています。したがって、厚生年金に加入義務があるのに加入していない人がいるというのはあくまでも例外で、数としてはそう多くはないと思われます。大抵は従業員の意思にかかわらず納付はされるわけです。
ところが国民年金はそうではありません。被保険者が自発的に納付するわけで、当然天引きでもなく厳しい取り立ても(最近は非常に悪質な場合は強制執行があるようですが)ありません。放っておけば自然と未納・滞納になってしまいます。
私個人としても、たぶん外国人の方の国民年金納付率はかなり悪いだろうなと思っていました。なにせ日本人を含めた全体の国民年金の納付率が60%を切るという状況です。「外国人の方に積極的に納付をするのはあまり期待できないな」と感じていました。しかし「納付している方はほとんどいない」といわれたのにはさすがに驚きました。そこまでひどい状況なのかと…。
国民年金にも脱退一時金があります
国民年金にも外国人のための脱退一時金という制度があります。
こちらは厚生年金の脱退一時金と違って定額で、36カ月(3年)以上日本で保険料を払っていた場合は、24.44万円を受け取れます。
しかしこれも問題で、例えば5年ほど日本に滞在されていると、5年で80万円を超える年金保険料を払うことになり、損得勘定で考えるとやはり「損だな」という意識が芽生えてきてしまいます。
日本人でもなかなか納付したがらない国民年金の保険料、ましてや将来自国に帰ってしまい、老後は日本の年金制度のお世話にならないかもしれない外国人に納付をお願いするのは相当に厳しいものがあります。
未納者があまりに増えると
国民年金に関して外国人の未納滞納が極端に多いといっても、外国人で日本にお住まいの第1号被保険者の人数は、国民年金の被保険者全体としてはわずかです。
ですから、現在、外国人の方がほとんど国民年金の保険料を払わないという現実があっても、年金制度が急に悪化していくとことはないでしょう。
しかし、このような状態で、海外から日本に仕事や勉強をしに来る方で「全く保険料を払わない人」がさらに増えていくとなると、問題が生じてくることがあるかもしれません。また、「みんな払っていないのに払うのがばかばかしい」とか「正直者がばかをみるのではないか」といったマインドが、外国人のみならず日本人にも定着してしまうことが、とても心配です。まじめに保険料を払っている人はこの状況を不快に感じることは当然ですので。
そんなことになっては年金制度の根幹が揺らいでしまいます。杞憂であればよいのですが。
2010.08.16
 |
執筆者:桶谷 浩
|
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
|
|
 |
|