第97回 脱退手当金って?(1)
最近の報道から
「長妻厚生労働大臣(当時)は、厚生年金の加入期間が短かった人に保険料の一部を払い戻す「脱退手当金」について、日本年金機構の記録が誤っている可能性があるとして、約14万3,000人に確認を呼びかける通知を送ったことを発表した」という報道が新聞各紙に掲載され、また年金の未払いの問題が浮上してきました。今回はこれを取り上げてみたいと思います。
脱退手当金ってなに?
そもそも、「脱退手当金」というのは何か? ここから理解していかないと話はわかりません。
「年金受給に必要な期間が足りず年金を貰えない人」の保険料の掛け捨てを防止するため、一時金として清算してあげるという仕組みです。
基本として、脱退手当金は、「昭和16年4月1日以前に生まれた者で、60歳に到達したときまたは60歳に到達したあと被保険者資格を喪失し、老齢厚生年金の受給権者となることができない(年金を貰えない)者に支給される」となっています。
問題は特例の脱退手当金
ところが脱退手当金に該当するのはこれだけではありません。今ではなくなりましたが、かつては「特例の脱退手当金」というのがありました。
その中でもいちばん問題となるのは、
「昭和40年6月1日から昭和53年6月1日までの間に第二種被保険者(女性の厚生年金加入者を指します)の資格を喪失したもので、被保険者期間が2年以上あるとき」は脱退手当金を貰えるという特例があったのです。この場合は、会社を辞めた時期に脱退手当金を貰っている。冒頭の原則の支給のように「年金を貰えないから手当金を貰う」というわけではないのです。
そうすると、年金相談にて以下のような例にひんぱんに遭遇します。
「とある主婦Aさん(65歳)。大学を卒業して、3年ほど会社で働いて25歳で結婚した。結婚を機に昭和45年に退職し主婦となったが、退職時に一時金として年金を清算し一時金を受け取った、したがってその期間は老後の年金には反映されない」
今をさかのぼること40年前、当時は
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結婚したら会社を辞めるのが当たり前。 |
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会社を辞めたら夫の被扶養者となって一生生活していくのが当たり前、あとで復職して会社に勤めるなんて考えられない。だから老後も夫の年金または夫の遺族年金で生活し、自分自身の年金を持つ必要性はない。 |
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何年か勤務した後であると、脱退手当金はまとまった金額になっており、それを使えば嫁入り道具の一つも増える、嫁入り道具を買ったほうがよい。 |
そんなこんなの理由で、
「会社を辞める=脱退手当金として一時金で年金を清算する」のが、極めて当たり前だったのです。統計資料ではわかりませんが、当時(昭和40〜53年ころ)会社に勤務し結婚退社された方の相談を受けると、大体8〜9割の方は(結婚退職の場合)脱退手当金を支給されているようだというのが実感です。当時のことはわかりませんが、多分結婚退職のときに、脱退手当金を貰わないと、「どうして?」という雰囲気だったのではないでしょうか。
今思えば、とてももったいない
当時(昭和40年ころ)は、脱退手当金を受け取ると、嫁入り道具として電化製品が一台買えたといいます。
確かに、例えば3年ほど勤めた場合、1カ月分の給与程度は支給(平均標準月額(再評価しない)×0.9)されていたようですからそうなのでしょう。
・国民年金:6万円
・厚生年金(給与にもよりますが10万円台の半ばの給与だったとして):6万円程度
合計12万円すなわち月額1万円くらい年金額は違っていたはずです。
そうすると、国民年金は65歳から87歳まで22年貰って132万円、厚生年金は夫が死亡時まで(以後は遺族年金と被るので実質的に意味はない)ですからAさんが80歳のときに夫が死亡するとして、65歳から80歳までの15年間で90万円。
夫婦ともに平均的な年齢まで生きるとすると、合計で132万円+90万円=222万円の年金を逸したことになります。
嫁入り道具一つ増やして、200万円を超える年金を逸してしまった。
当時の世情その他から仕方がないのですが、本当にもったいないことです。
「年金なんか将来どうなるかわからない」と考えて、その時点で脱退手当金を貰った人も実際いらっしゃるのですが、今どう思われているでしょう。
2010.10.18
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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