>  知ってビックリ!年金のはなし >  第98回 脱退手当金って?(2)
知ってビックリ!年金のはなし
第98回 脱退手当金って?(2)
 
まだら事案は記録が回復されます
  (1)で説明したように、「脱退手当金」は「脱退」ということですから、一時金を貰うことで厚生年金を完全に抜けるということになります。
  現在65歳になる専業主婦Aさんは、株式会社甲で2年、株式会社乙で3年働いていた。
  そういう場合に脱退手当金を貰う際には、甲の2年、乙の3年をそれぞれ足して合計5年分全部を清算し厚生年金から抜けることになります。
  ところが、今般ずっと問題となっている年金記録の不備の問題で、甲の2年、乙の3年のうち乙の3年分だけを処理し、甲の2年分が全く消えていた、というケースがあぶり出されてきているのです。
  これが俗に「まだら事例」というもので、きちんと清算の期間に入っていない場合は、その記録(脱退手当金の該当期間にならなかった部分)について、記録回復が認められるのです。そのために「昔の勤務履歴の確認をお願いします」という通知を送った。前回(1)の冒頭で説明したことはこういうことです。
善意でマイナスの結果を生じさせる
  脱退手当金に関するいろいろな問題が生じたのも、理由があります。第一に国の問題、仕組み自体の問題と、事務処理をした社会保険事務所の問題。もうこれはあちこちで批判され、あちこちで説明されていますから特に言うことはありません。
  ただ、原因はこれだけではありません。
  役所以外の、会社等にも問題があることもあるのです。しかもそれは「会社が悪意ではなく善意でしたこと」によるものです。
  会社は、結婚のために退職する社員(特に女性社員)について「脱退手当金を貰うのは当たり前だ」と、本人の意思確認もろくにせず、手続きをしたケースが時々あるようです。
  それは悪意ではなく、本当の「親切心」だったのです。
  自分で役所に行って、あれこれと面倒な手続きをするのを少しでも軽減するための親切心、結婚というイベントでの忙しさのため忘れることのないようにという親切心、今から思えば全く余計なことですが。夫の扶養になるのだから老後も夫の扶養であるのは当然で、「女性自身の年金権」という考え自体が理解できない、そんな時代だったのでしょうか。
  そして、印鑑も年金手帳も、みな会社が預かっていて、会社が本人に無断で書類に署名捺印をして役所に持っていく、そんなことが極めて普通に行われ、個人情報の保護など全く考えもしない時代であったことも、その流れを助長していました。手続を勝手にすること自体まずいですが、内容までその人の以前の勤務履歴など気にもとめず間違った手続きを行ったりした。親切心はあったが年金に対する理解は欠けていたのです。ご自身で手続に行かれたら、自分の記録ですからその前に「別会社で年金に入っていた」ことが言えたかもしれませんが、それもできなかった。
40年という時の流れ
  昭和40年代というとおおむね40年前です。
  たった40年の間にこれだけ、男女の問題、個人情報の問題その他いろいろな世の中の仕組みや考え方が変わってきたことに驚くと同時に、年金の難しさをひしひしと感じます。
  40年ほど前の社会で極めて当たり前だったことが、40年たって振り返ってみると全くとんでもないことになる。
  脱退手当金を貰いそびれていた人が結果的に老後の年金に結び付き、脱退手当金を貰わなくてよかったということになる。老後の生活の柱である年金が、当時の考え方や世の中の風潮でゆがめられ、運不運が生じるのです。
  年金は時代を反映しますが、時代が大きく曲がると置き去りにされることもあります。
脱退手当金他の注意点
  さて、ずさんな年金記録、脱退手当金の記録ですが、もう一つ該当者には確認していただきたいことがあります。
  当時は役所の処理、会社の処理およびチェックがずさんだったようです。
  そこで、例えば会社を8月31日に退職したのに、8月30日に脱退手当金を受け取ったということになっている場合があるのです。こういうケースはたまに実在します。
  脱退手当金は、厚生年金の清算ですから、当然ですが退職後にしか申請できません。つまりこの処理は「脱退一時金を貰えないときに手続きをしてしまった」誤った処理になります。
  この場合は、脱退手当金を貰った手続き自体が間違っているのですから、処理自体が取り消され、全部の厚生年金の記録が回復します。記録が回復するともちろん年金に結び付くことになります。
  実際これで年金が貰えるようになった事例もあります。さすがにこのような手続きのミスはそう多くはありませんが、脱退手当金について確認する場合はこのポイント(辞めた日と受け取った日)もきちんとチェックをする必要があります。ここは、よほど気を付けないと見落としてしまうところですので、脱退手当金を受け取った人はぜひ一度確認してみてください。
2010.10.18
執筆者:桶谷 浩
[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。

2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
  ページトップへ