第99回 年金の水準を下げる大変さは万国共通
どの国も苦労している年金問題
フランスの年金改革反対ストもいよいよその過激さを増し、日常生活に支障をきたしているようです(10月20日現在)。海の向こうの遠い国の話ですが、連日報道されており、その問題の大きさがわかります。
フランスの年金改革案の目玉は、支給開始年齢を62歳に引き下げることだそうです。そういえばついこの前、フランスのお隣イギリスでも「聖域とされてきた社会保障制度も改革して、年金の支給年齢を2020年までに66歳に引き上げる方針」ということが打ち出されました。こちらはまだこれからの話ですが、当然ながら反対が強く、すんなりといくかどうか、波乱もありそうです。
医療や年金といった社会保障制度は、われわれの生活に密着し大きく影響があるものですので、(水準等の引き下げに関する)改革に、ものすごく抵抗が強い問題です。しかし、「医療保険+年金」は莫大なコストがかかる(例えば日本でいうと、医療保険と年金の給付額は年間80兆円を超える)、国を預かる政治家としては「ここをどうにかしないといけない」というのは、国を問わず皆、思うところでしょう。
支給開始年齢を遅らせるのは支給の減額か?
日本で国民年金が始まったのが昭和36年。当時の平均寿命は、男性66歳、女性71歳であり、国民年金の支給開始年齢を考えると、特に男性の場合は、ほんの僅かの期間国民年金を貰う状態で、貰わないで終わることも普通にありえるものでした。ところが今や男性の平均寿命は79歳、平均死亡年齢は81歳です。男性も平均して15年近く、国民年金を貰うようになりました。
昭和36年当時の平均的な受給可能期間からすると、現在の国民年金は、男性が77歳、女性は81歳ころから受給開始で同じくらいと考えられます。「開始年齢が固定され続け」「平均寿命が延び続けている」、そしてそれを「国がなにもしないで放っておく」ならば、年金の財政が毎年悪化していくのは必然です。
フランスも他の先進国と同様、平均寿命の延びは著しく(ここ40年間で平均寿命が男性5年・女性8年ほど延びている)、何も手当をしなければ年金財政は厳しくなっていくのは日本と同じく仕方のないことでしょう。やはり年金改革は避けて通れない問題です。
年金の支給について「平均寿命等からさかのぼって20年前を支給開始年齢としたらどうだ」、そんな方法を提唱する人もいます。確かに平均寿命の延びの問題はクリアできるかもしれません。
しかし、「年金はいつから貰えるか?」という国民の大きな関心事が平均寿命によりコロコロ変わるわけですから、老後年金をあてにする人からみたら、生活設計が立てにくいという致命的な欠陥があると言わざるを得ません。
フランスの出生率はそんなに悪くなく(合計特殊出生率2.07;2008年)、日本のような少子高齢化とは様相を異にし、少子化は日本ほど真剣に考えなくてもよい国なのですが、それでも高齢化の進展は社会保障に関する支給に影響を与えるという点で悩ましい問題があり、年金制度への維持に苦慮しているのでしょう。
日本も将来また改正しなければならないかもしれない
フランスの事情に詳しい人によれば、これだけストが激しいものの、平均的な層以上の人にはある程度、「年金改革が今後の年金制度持続のためにはやむなし」と認識をされているとのこと。
物事に普通の理解力がある人ならば、よほどのプラス要因でもない限り、高齢化はすなわち年金財政の悪化に直結することは理解でき、その対策として、(1)保険料を上げる、(2)給付を下げる、(3)支給開始年齢を遅らせる、のいずれかまたはそのミックスで対応する年金の将来の方向性を立てないと続かないということも納得できます。
しかし、本当にそういう常識的な人ばかりではなく、やはり「目の前の年金が減る」ことに単純に怒りを爆発させる人がいるのはやむをえず、しかも選挙に関してはそういう「将来発展のためにあえて火中の栗を拾い年金を改革した」人が、年金を改悪した等の謗りを受けて不利になるということも普通にあることです。
誰かが猫の首に鈴をつけないといけないが、鈴をつけるにはリスクが高すぎる。
日本の年金制度も今後高齢化がさらに続けば、今の65歳の支給開始年齢をさらに遅らせる等の対策を取らざるを得なくなるかもしれません。その場合にはそれこそ与野党が結束して、日本の進むべき方向性を定めなければならないのだろうと思います。
2010.11.15
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執筆者:桶谷 浩
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[経歴・バックグラウンド]
大学卒業後、生命保険会社に勤務その後退職し、学習塾等に勤務
2001年社会保険労務士として独立開業
2002年FP登録(AFP、後CFPに)
現在、公的年金を中心に据え、成年後見・介護制度を併せて、広く老後の生活設計を考えるというテーマで、相談業務、講演、執筆など活動中。
2007年4月に合同会社電脳年金を立ち上げ。
[保有資格]
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP)、行政書士
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