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日本郵政公社の投信窓販戦略とその影響
●  販売開始1カ月で90億円を突破
  日本郵政公社(以下、郵便局)が10月から開始した投資信託窓口販売(本欄「今週のトピックス」1118参照)に関する累計販売実績は、販売開始からわずか1カ月で90億円を突破した模様である。
  そこで今回は、郵便局が販売している投資信託の具体的な内容、そしてそこから見えてくる今後の郵便局の販売戦略について考えてみよう。
1.取扱投資信託の概要
  郵便局が取り扱いを開始した3商品の概要をまとめると、下表の通りである。
商品名 野村世界6資産分散投信 GS日本株インデックス・プラス 大和ストックインデックス225
ファンド
運用会社 野村アセットマネジメント
(国内系)
ゴールドマンサックスアセット
マネジメント(米国系)
大和証券投資信託委託会社
投資対象 国内外の株式
国内外の債券
国内外のREIT
国内株式 国内株式
販売手数料 1.575% 2.625% 2.1%
商品特性 国内外の株式、債券に加え、不動産投信にも投資を行う 日本の株式市場に投資。TOPIXを上回る収益を狙っていく 日本の株式市場に投資。日経平均株価に連動を目指す
2.注目すべき商品は?
  3商品の中で最も注目を集めているのは、野村アセットマネジメントが運用する「野村世界6資産分散投信」である。この商品は、運用資産の組み入れ比率に応じ、安定型、分配型、成長型に分かれる。その資産配分はそれぞれ以下の通りである。
【「野村世界6資産分散投信」の3タイプの資産配分】
  債券 株式 REIT
国内 海外 国内 海外 国内 海外
安定型 60% 10% 5% 15% 5% 5%
分配型 20% 50% 5% 15% 5% 5%
成長型 10% 10% 35% 35% 5% 5%
  この商品で注目すべき点としては、投資対象に株や債券だけでなく不動産に投資する不動産投信いわゆるREITファンドが組み入れられていることである。しかも、国内のREITだけでなく、海外のREITが組み入れられている点は非常に注目すべき点といえる。
  安定型・分配型・成長型のどれを選択しても、投資資金の10%はREITファンドへ回ることは分散投資の観点からも効果的である。なにより「REITファンドが郵便局で買える」という点は驚きとしかいいようがない。
●  公的年金の上乗せ運用商品
  また、投資信託で顧客からの人気を集めている毎月分配型投信のニーズを踏まえ、この商品はどの型においても原則奇数月の10日に分配金が支払われる形となっている。厚生年金などの公的年金が偶数月の15日に支払われることを考えれば、まさに公的年金の上乗せとしての運用商品というセールストークが展開されることは容易に想像でき、販売ターゲットも現在の高齢者はもとより、これから退職を迎える団塊の世代の退職金獲得も視野に入れた戦略商品といえる。
  昨今のメガバンク・地銀などの投信窓販の現状は、海外債券に投資する毎月分配型投信に過度に傾注している感があり、「投信窓販=毎月分配型」になりつつある。その実状を考えると、@隔月分配 AREITファンドをはじめ海外債券以外にも自動的に分散投資 という2点で銀行の投信窓販とは明らかに一線を画す商品である。
  このような商品を取り揃えて投信窓販に参入するところに、銀行窓販を研究した上で郵便局が投信窓販に参入してきたことが読み取れる。
●  日本人の資産運用スタイルを「貯蓄から投資」へ導く金融機関の登場
  今回の投信販売開始によって、株式投資に興味がある人や海外債券投資に興味がある人、また不動産投信に興味がある人に対しても、セールスチャンスが生まれることは確かである。つまり、郵便局は、郵貯しか扱わない「昔の郵便局」とは決別し、資産運用相談ができる金融機関へすでに進化を始めているのである。
  販売力、信頼性、販売戦略のどの点から比較しても、郵便局がメガバンク・地方銀行・証券会社にとって強大なライバルとなる日はそう遠い日ではないかも知れない。
  現在の販売実績は郵政局の当初目標額を下回っており、雑誌などでは進ちょく状況がスローペースと報じられているが、
  (1)郵便局にとって初めてとなる元本保証がない商品の販売であること
  (2)取扱商品が現在は3ファンドしかないこと
という2点を勘案すると、順調な実績といえるであろう。また、今後は取扱郵便局の拡大に加え、取扱商品の拡大も順次行われる予定とのことであり、そうなれば、一層の販売実績向上は確実である。
  日本の金融業界においてはこの郵便局の投信窓販開始は、金融業界の今後、ならびに日本人の資産運用スタイルを「貯蓄から投資」へ加速させる出来事になる可能性が極めて高いことは間違いないであろう。
  当記事は、あくまで筆者の見解や予想、考え方をご紹介したものであり、個別商品の売買の推奨を意図したものではありません
2005.11.07
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