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改正介護保険施行後、現場で何が起こっているか
〜「ホットライン」から見えてきた危機〜
●  要介護認定と実態に差が目立つ
  6月19日から21日の3日間、いくつかのNPO法人や市民団体が合同で「改正介護保険ホットライン」を開設した。改正された介護保険制度について、一般の利用者を中心とした現場からの相談、苦情、不満などを電話を通じて訴えてもらうというもので、3日間で140件以上の声が寄せられた。筆者も、そのうちの2日間、電話を受けるボランティアとして参加した次第である。
  自分が受けた範囲内だけでも、介護現場が立たされている状況がひしひしと伝わってきた。その深刻さは参加前に予想していた以上に厳しいものがある。個人情報にかかわる内容も多いため、個別事例の詳細を述べるわけにはいかないが、全体から見えてくる状況をかいつまんで挙げてみたいと思う。
  まず、圧倒的に多かったのが、いま各所で問題になっている「要介護1、あるいは要支援の判定を受けた人から介護用ベッドや車いすが問答無用で引き上げられている」光景である。今回の制度改正で「要支援者を中心とする軽度の要介護者については、介護用ベッドや車いすのレンタルは"例外なく"保険給付から外される」ことになった。
  では、本当にそうした人々に介護用ベッドや車いすが必要でないのかというと、「要介護認定自体が、実態よりも軽く出ているのでは」と思われる事例が多々見られる。例えば、床からの自力での立ち上がりや車いすなしでの自力歩行が明らかに困難な人が要支援の判定を受け、ベッドや車いすを取り上げられる。当然、日中積極的に起き上がったり外出したりする機会が減るため、かえって生活意欲が減退し、要介護度の悪化リスクが高まる恐れがある。
●  本人や家族への説明が不足
  加えて問題なのは、行政やケアマネジャーから本人・家族への説明責任が、どう見ても果たされていないことだ。
  例えば、要介護度悪化を防ぐのであれば、適切に介護予防サービスへつなぐというマネジメントが必要である。だが、そのためには、本人やその家族が「介護予防とは何かをしっかりと把握し、それを受けることに納得をするか」という点が極めて重要になる。
  介護予防、あるいは要介護度の悪化防止については、本人・家族のモチベーションが伴わなくては「継続」は難しい。「継続」がなされなければ介護予防の効果は期待できなくなる。その意味でも、介護予防についての知識と納得を得ることは不可欠なのだが、その過程が果たされているとは言いがたい。
  今回の相談事例の中には、「介護予防」という存在さえも聞かされないまま、いつの間には予防サービスに移行しているというケースもいくつか登場した。制度のことについて、行政やケアマネジャーから明らかに"ウソ"の説明を受けているのではと思われるケースさえもある。
●  利用者負担増えれば制度崩壊の恐れ
  ちなみに、先だって「今週のトピックス No.1245」で触れた、政府・与党の歳出・歳入一体改革では、今後5年間で社会保障費を1.6兆円削減することが明示され、来年度予算の指針となる「骨太の方針」(7月7日に決定予定)に反映されることがほぼ確実となった。この数字を本当に実現するとなれば、当然、介護保険における利用者負担を現在の1割から2割にアップさせるという案が浮上することになるだろう。
  だが、現場の利用者がサービス自体に納得していない状況が浸透しているなら、いきなり自己負担の増額を決められても「はいそうですか」というわけにはいかない。最悪のケースとして考えられるのは、「それなら介護保険はもう使わない。家族だけで介護をする」という世帯が急増することだ。
  いま、連日のように要介護者のいる世帯での介護殺人や介護心中といった事件が報じられている。今後、こうしたケースがますます増えてくるとなれば、日本の介護制度そのものが崩壊する恐れもある。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.07.03
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