>  今週のトピックス >  No.1278
5年ぶりに金利復活、その背景と生命保険への影響
  日銀は7月14日の金融政策決定会合で、ゼロ金利解除を決定した。具体的には、翌日物の無担保コールレート(銀行間で短期の無担保資金を融通し合う際の金利)の誘導目標金利を0%から0.25%へ引き上げたのである。
  これは日銀の方針転換を意味している。デフレ脱却を目指す政府の金融政策に基づいて量的緩和政策を10年余り続けてきたのだが、それをやめたのだ。
  以前から日銀は「量的緩和政策の転換期を迎えている」というメッセージを再三発してきた。過去の記事(No.1214)では、ゼロ金利解除が個人にどのように影響するかに関して触れたが、今回は日銀が金利復活を決めた背景や生命保険への影響について別の視点で考える。
●  ゼロ金利解除の背景
(1)国内の背景―バブルの芽を摘み、将来の景気減速に備える
  第1に、日本経済が「いざなぎ景気」を超えるほど長期に回復している状況がある。量的緩和をこれ以上続けた場合、不動産、株式市場、商品先物市場などへ必要以上の資金が流入することとなり、バブル復活となる可能性も危惧される。現に、都内の優良不動産物件に関しては一部バブルの様相を呈しているため、日銀としては早めにバブルの芽を摘みたかったと思われる(※1)
  第2の観点としては、日銀の金融政策の幅を将来に向けて広げるという面がある。バブル崩壊以降、日銀は金利の引き下げを連続して行い、ついにゼロ金利まで達してしまった。市場に資金を潤沢に供給する量的緩和政策も実施しており、日銀の金融政策に「出尽くし感」があったことは事実である。景気が回復してきている現時点で金利を復活させておかないと、将来もし景気が減速した際に、日銀が金融政策面で打つ手をなくしてしまう危険性があった。ゼロ金利を一度解除しておくことで、もし景気が減速した際は再度金利を引き下げるという策を確保したのである。
(2)海外の背景―欧米諸国と足並みを揃える
  米国ドルやユーロなどが、すでに低金利政策を転換したことも影響している。
  米国はインフレ抑制のためにFFレート(※2)を1%から5.25%へ引き上げており、低金利政策を完全に転換した。ユーロもECBレポレート(※3)を2.5%に引き上げ、インフレ抑制政策へと移行しつつある。
  こうした状況下で、欧米を上回る景気回復を見せている日本が低金利政策と量的緩和政策を継続した場合、どうなるだろうか。海外の投資家が日本円で資金を調達して欧米市場へ資金を投資するという状況が起こり、欧米の政策を骨抜きにしてしまう可能性もある。実際、そのようにして低金利政策で調達された資金が原油などの先物市場に大量に流入しており、深刻な原油高を招いていることはご存じの通りだ。
  このように、低金利政策の弊害を是正するために欧米諸国と足並みを揃えることも、今回の解除要因の一つと考えられる。
●  生命保険への影響
(1)国内生保に求められる変額保険の販売戦略
  ゼロ金利解除によって、生命保険の予定利率が改定されるだろう。注目は、好調な販売実績を挙げている変額保険(変額年金含む)である。
  なぜならゼロ金利解除は「デフレ経済の終わり」と「インフレ経済の時代の幕開け」を告げるものであり、インフレヘッジ機能を持つ代表的な生命保険が、この変額保険だからだ。
  長く続いたデフレ経済のもと、変額保険については税制優遇枠(※4)、年金原資保証、死亡時の元本保証機能などがアピールポイントとされ、インフレヘッジ機能に関してはあまり注目されてこなかった。しかし、これからは変額保険の最大の強みが生かされる環境になっていく。
  インフレ時代に突入すると、変額保険は貯蓄・保障・税制優遇という三つの機能を兼ね備えた商品として大きな注目を浴びるであろう。この商品を国内生保は銀行窓販に任せたままにするのか、自社でも積極的に扱うのか。10年後を見据えた販売戦略の検討が求められる。
(2)必要保障額が上昇する
  インフレ経済が復活するということは、端的にいえば5年先、10年先の物価が上昇していくということである。デフレ経済下における世間の意識は「10年先も物価は変化しないだろう」というものが多い。しかしインフレとなれば人々の意識も変化し、「同じ物価が続くことはありえない」と気付き出す。
  そうなれば、一家の大黒柱に万一のことがあった場合に必要となる資金もデフレ経済時以上に必要となることが、感覚的に理解されることとなる。
  今後、顧客へ必要保障額を提示する際には、インフレ率を考慮した必要保障額の算出も重要となるのではないだろうか。
●  最後に―メリットは大きい
  金利の復活には当然、メリットとデメリットの両面がある。しかし今回の大きな要因が日本経済の力強い回復に起因するものであることを考えると、企業や家計にとっては良い影響を及ぼすといえるのではないだろうか。
  ローン金利負担増加などのデメリットよりも、物価上昇に伴う企業利益の増加、賃金のベースアップ復活やボーナス支給額増加による企業利益の家計への再配分、そして預貯金の受取利息増加などのメリットの方が、大きくなる可能性が高いからである。
※1 このように資金面の調節で景気を調整することは日銀の重要な役割であり、今回の判断はおおむね正しいと市場では判断されている。
※2 米国の代表的な短期金利で、日本のコールレートに相当する。
※3 ECB(欧州中欧銀行)が定める政策金利。
※4 他の生命保険金も合算した上で、「500万円×法定相続の数」まで非課税となる。
2006.07.31
前のページにもどる
ページトップへ