>  今週のトピックス >  No.1317
第33回国際福祉機器展から見えたもの
〜制度改正で苦慮する市場の戦略と展望〜
●  福祉機器業界にダメージ
  アジア最大規模といわれる福祉機器の展示会「国際福祉機器展」が、今年も9月27日からの3日間、東京ビッグサイトで催された。
  年々出品規模が拡大する展示会ではあるが、今年はやや様相が異なる。周知の通り、介護保険制度の改正に伴い、軽度の要介護者に対する福祉機器貸与のサービスが制限されることになり(「今週のトピックス」No.1293参照)、この10月からは貸与の取り消しが完全施行されている。当然、利用の縮小とともに業界全体に与えるダメージも相当大きなものになることが予測される。
  事実、大手福祉機器メーカーの中には、売上げが対前年比2割減などというところもあり、早期退職者制度を導入して実質的なリストラに入ったというニュースも伝わってくる。
  そうした中で、今回の機器展を巡った感想としては、確かに全体的に新商品開発の意欲に乏しいことや、かつては大変に元気のあった地方の中小メーカーによる斬新な出品が目立たなくなったということが挙げられる。ある大手介護ベッドメーカーのブースでは、「本当に厳しい」という生の声も耳にした。
●  介護現場の試行錯誤に応えるアイデア見られず
  その一方で、勢い衰えずという光景もある。介護予防を目的としたトレーニングマシンや口腔ケアグッズの類である。特にトレーニングマシンのブースは、いったいいくつあるのかというくらい数を増し、全体的に廉価が進んだこともあってどこも盛況である。
  だが、個人的な感想を述べれば、どこも似たりよったりで、「介護予防」というものの本質をどこまでとらえているのかが見えてこない。4月の介護保険制度改正以降、現場においては「利用者に介護予防へと参加させる動機づけ、あるいはモチベーションの維持・向上をどう図るのか」が大きな課題となっている。この点をクリアせずに、ただ近代的なトレーニングマシンを備えただけで、介護予防が進むと考えるのはどうかしているだろう。
  わたしが取材・視察した介護現場の中には、例えばトレーニングの間に利用者が好むBGMを流したり、フロアに空気清浄機やアロマテラピーを施すなど、利用者が「介護予防に参加することで気分がよくなる」演出をあれこれと考えている所もある。デイサービスの終了間際にフットケアマッサージを行なうことで、利用者の「また来たい」という意欲をかきたてる工夫も見られる。
  今回の福祉機器展では、こうした現場の試行錯誤に応えるようなアイデアというものがほとんど見られなかったのが残念だ。
●  自立への意欲向上に照準を
  もちろん、「これは面白い」と思ったものもなかったわけではない。個人的に一番興味を引いたのは、もともと植木の鉢などを作っているメーカーが開発した、「車いすや椅子に座った状態で、無理な姿勢をとらずにガーデニングが楽しめる」というテーブル型のプランターである。施設やグループホームなどにおいて、アクティビティに園芸を行う光景は多いが、スペース確保に苦慮したり、利用者の身体状況に合わせた設置が難しいといった悩みをいくつか聞いていたからだ。
  これからの介護というのは、利用者の人生の目的や楽しみといった部分にいかに光を当て、「その部分を支援することで、自立への意欲も高まる」という理念が主流になってくるだろう。この点にしっかりと照準を定めた福祉機器の開発ができれば、"制度改正不況"を乗り切ることも不可能ではない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2006.10.10
前のページにもどる
ページトップへ